リサイクルとサステイナビリティの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム訪問編

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

スウェーデン発のグローバルブランド「H&M」からプレスツアーのお招きを受けて、香港の研究所へ取材に行ってきました。テーマはリサイクルとサステイナビリティ(持続可能性)。現地のショールームや研究所を9月8日に訪ねて、H&Mが取り組む循環型プロジェクトの最前線を見せてもらいました。とても中身の濃い取材だったので、3回に分けてリポートしていきます。第1回は初日に訪問したショールームでの概要説明から。第2回では研究所の様子、第3回ではキーパーソンのインタビューをご紹介します。

街を歩くだけでパワーがもらえそうなエネルギッシュシティー、香港。私はこの街で子供の頃に2年間暮らしたことがあり、今回は久しぶりの里帰りとなりました。市内にある香港ショールームには、アジア各国・地域のジャーナリストやメディア関係者が集まりました。今回のプレスツアーでは、H&Mが香港で進めている研究開発と、全世界規模でのサステナビリティーを、実際のリーダー、専門家たちから聞くことができたので、私が見聞きした様子をお伝えします。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

◆ファッションの「サステイナビリティ」とは?

ここであらためて「サステイナビリティ(sustainability)」の意味を確認しておきましょう。もともとは英語の「sustain」と「ability」がくっついた合成語です。「sustain」の意味は「維持する、持ちこたえる」ですから、全体の意味は「維持していけること」です。これが「持続可能性」と訳される理由です。では、何を維持していくのか言えば、現在の地球環境と文明社会です。見方を変えれば、放っておけば、今の地球環境と文明社会をこの先ずっとは維持できなくなるという危機感があるわけです。

この危機感の前提になっているのは、「地球は有限」という当たり前の事実です。石油も水も土壌も限りがあります。無制限に使っていては、やがて底を尽いてしまいます。だから、短期間に使い果たさないよう、賢く節約しながら、長く持たせようという発想が生まれました。数が減ってきたマグロやウナギの漁獲量を取り決めで制限するのも似たような考えからです。

農薬を使って土地を痛めつければ、やがて綿花は収穫が難しくなりかねません。服をそのままごみとして燃やせば、さらに石油が必要になり、温暖化も進みます。つまり、大量生産・大量消費・大量廃棄はサステナビリティーの逆を行くわけです。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

◆服がごみにならない構造「循環型のサイクル」とは?

反対にリサイクルやエコ農法は「地球」という生き物にやさしいということになります。H&Mが提案している循環型の仕組みは原料がリサイクルや再商品化を繰り返す仕組みだから、ごみが出にくい構造です。使い終わったら丸ごとごみになってしまう、従来の「一方通行」式の生産・消費システムとは、輪(ループ)が閉じている点で大きく異なります。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

最初のプレゼンテーションに登場したのは、ハンナ・ハリン(Hanna Hallin)さん。肩書はH&M中国統括サステイナビリティマネジャー。つまり、中国でのサステイナビリティ事業のトップ。全体像を知る立場にふさわしく、H&Mの目指す循環型サステイナビリティの概要を分かりやすく説明してくれました。

 

◆H&Mは自社・他社製品に関係なく、全ての古着回収を受け入れている

H&Mのショップでは古着の回収を常時、受け付けています。アパレル企業の場合、自社の販売済み商品しか回収してくれないケースが珍しくありませんが、H&Mはどこの商品でも関係なく受け付けています。こうして回収された服は仕分けを経て、古着として流通したり、別の製品に作り替えられたりするのですが、すべてが再流通・再利用できるわけではありません。

ハリンさんの説明によると、全商品のうち、リサイクルまたはサステイナブルな素材が使われた量の割合は2016年の全世界で26%にとどまるそうです。2014年の13%に比べれば、ちょうど2倍の伸びですが、まだ約4分の3が循環型ではない「一方通行」の流れに乗ったままだということになります。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

 

◆2030年までに「100%循環型で再生可能なファッション」が目標

H&Mはこの循環型の割合を高める取り組みを加速させています。新たな目標は「2030年までに100%の製品にサステイナブルな原材料のみを使用」というものです。H&Mが目指すのは、「100%循環型で再生可能なファッション」。つまり、一度生産された服が回収され、再利用されて、再び売りに出されるという、原料と製品がぐるぐる回るループ(輪っか)になる仕組みです。今回公開された、香港での開発プロジェクトは循環型の割合を100%に引き上げるうえで、極めて重要ということです。

化学繊維の代表格と言えるポリエステルの製造には石油や水が必要です。これらの資源を無駄にせず、地球を「長持ち」させるには、「資源→製品→資源」という循環型のシステムが欠かせません。すでに取り組みは始まっていますが、先に示した通り、まだ100%の循環率には至っていないのが現実。H&Mはこの100%化を急いでいるわけです。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

◆アパレル・産業界全体のことを考えるH&M Foundation(ファウンデーション)

次に説明を担当したのは、H&M ファウンデーションでプロジェクト・マネジャーという立場にある、スウェーデン出身のエリック・バン(Erik Bang)さんH&M Foundation(ファウンデーション)というのは、非営利の財団です。H&Mの創業者、ステファン・パーソン一族が設立しました。H&Mにゆかりの深い財団ですが、あくまでも独立した立ち位置を持っていて、目的や事業はH&Mだけのためではありません。バンさんの話には何度も「産業界」「アパレル業界全体」といった意味の言葉が出てきて、この財団が公益性を重んじていることを印象づけました。

実際の活動にあたっては、意義のある投資を通じて、長期的にプラスの変化を生み出し、生活環境を改善することを役割と定めています。とりわけ、「教育」「清潔な水」「平等」「地球の保護」という4つの分野に変化をもたらすことを目指していて、香港でのプロジェクトは「地球の保護」という点で意義深いものです。

バンさんのプレゼンテーションで興味深かったのは、歯に衣を着せない、ストレートな表現です。今の産業や経済の仕組みは、バンさんの目には「直線的すぎる」と映っているようです。「作る→買う→使う→捨てる」の一方向にしか流れないシステムでは、ごみの山が避けられません。そのプロセスでエネルギー浪費や二酸化炭素排出などが生じて、地球温暖化を加速させてしまいます。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

◆生物化学を用いた、ごみを出さないリサイクル

リサイクルの取り組みは以前から様々な形で進んでいますが、バンさんによると、従来の手法は回収した品を裁断して低い価値の別製品に作り直すという、どちらかと言うと機械的な性質のものでした。この手法で進めると、どうしても再利用できない「残り物=ごみ」が発生してしまいがちです。一方、H&M ファウンデーションが香港で進めているのは、生物化学のテクノロジーを用いた、ごみを出さない手法のリサイクル。詳しくは次回の研究所編で取り上げます。

 

◆オレンジの皮から作られた繊維を高級ブランドも採用

ファッションブランドがサステイナビリティを重んじた素材の開発を支援する例としては、「Salvatore Ferragamo (サルヴァトーレ フェラガモ)」が柑橘類に由来するファブリック「Orange Fiber(オレンジファイバー)」を採用したことが知られています。ジュースを搾った後、大量に生まれるオレンジの皮を原料に、天然繊維を取り出すプロジェクトです。H&M ファウンデーションが支援する香港の研究所で成功した、ポリエステルとコットンの分離はリサイクルの可能性を広げる期待を担っています。このプロジェクトには日本の信州大学や愛媛大学も協力しているそうです。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

◆オーガニックコットンに比べ、ベターコットンは農家にやさしい

最後は国際環境マネジャーのハーシャ・ヴァーダン(Harsha Vardhan)さん(H&Mプロダクションオフィス)による説明です。コットン(綿)は私たちに最も身近な繊維ですが、意外に知られていない現実を、ヴァーダンさんに教えてもらえました。

たとえば、「Better Cotton(ベターコットン)」もその一例。肌にやさしいOrganic cotton(オーガニックコットン)は日本でも愛用者が大勢いますが、ベターコットンはまだあまり知名度が高くありません。ベターコットンも必要以上に農薬や水を使わない点ではオーガニックコットンに似ています。オーガニックコットンは栽培や流通に条件があり、認証を受ける必要があります。でも、ベターコットンは栽培農家がトレーニングを受ければ済み、認証が不要なので、農家が取り組みやすく、認証費用がいらない分、オーガニックコットンより取り組みやすく、価格面でもメリットがあるのだそうです。

H&Mは「サステイナブルなコットン」の利用を加速していて、2016年には全コットン製品のうち、43%に「サステイナブルなコットン」が使われました。H&Mが認める「サステイナブルなコットン」とは、オーガニックコットン、リサイクルコットン、そしてベターコットンです。

H&Mは2030年までに「サステイナブルなコットン」の利用率を100%にまで高める方針で、その実現に向けてはオーガニックコットンだけではなく、ベターコットンの調達拡大も必要です。なぜなら、農家が取り組みを始めてから実際の収穫までに2、3年を要するオーガニックコットンに比べ、ベターコットンは比較的取り組みやすいからです。

 

◆リサイクルとテクノロジーの融合が地球を救う

ヴァーダンさんはH&Mがサステイナビリティを高めていくうえでは、たくさんの団体・組織や研究機関、政府とのコラボレーションが不可欠になると言います。香港でパートナーに選んだ研究開発機関の「HKRITA」も公的な資金を受け入れていて、レベルの高い研究が可能になっています。有力な大学との連携も効果的です。そして、研究成果を実際の商品に反映していくにあたっては、やはり商品を製造、販売する企業の力が重要になってきます。政府や研究機関、企業などがそれぞれの強みや持ち味を発揮して力を合わせることによって、サステナビリティーが社会に広がっていくわけです。

リサイクルやサステイナビリティに関して、大まかなイメージを持っている人は多いと思いますが、実像や現実をきちんと把握している人はあまり多くない気がします。しかし、単に服を消費するとか、使い捨てにするというのではなく、「納得して着る」「気持ちよく着る」ということを考えるなら、やはり、服の成り立ちや行く末も意識したいものです。

 

◆日本の古着回収は世界のお手本

H&Mのスタッフからは日本に関して興味深い話が聞けました。H&Mは古着の回収を世界規模で手がけていますが、日本で持ち込まれる古着はほかの国・地域に比べて状態がとても良いのだそうです。こういうところにも国民性が表れるようです。古着の質が高いのに加え、持ち込みのリピーターが多いのも日本の特徴。日本人のごみ分別の丁寧さは世界的にも有名です。エコに積極的な傾向が強い点で日本は世界のお手本となっているようです。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

今回のプレスツアーでは、「現状をしっかり知ってもらいたい」という、H&M側の熱意が随所に感じられました。近頃は「あぁ、また食べちゃった」と気がとがめずに済む「ギルティー(罪悪感)フリー」のダイエットフードが人気を集めていますが、ファッションでも資源浪費やごみ山積の罪悪感を抱かずに済む商品を選択する時代を迎えつつあるようです。こういったエシカル(倫理的)な消費スタイルは、ごみの分別に象徴されるように、環境意識が高く、丁寧な暮らしぶりを好む日本人には受け入れやすいのではないでしょうか。

第2回では「HKRITA」研究所(The Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel)での様子をお伝えします。最新テクノロジーを使った繊維廃棄物のリサイクル手法を目の前にして驚きの連続。にわかリケジョ(理系女子)になった気分でした。お楽しみに。

 

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

リサイクルとサステナビリティーの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム編

H&M Foundation
http://hmfoundation.com/

~関連記事~

(第2回)
◆驚きの発明「服の混紡繊維を分離する技術」 「H&M Foundation×HKRITA」ラボ(研究所)訪問編
http://riemiyata.com/work/19703/

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