「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

H&Mのサステイナビリティ(持続可能性)に関する取り組みを取材した香港リポートの最終回となる第3回は、キーパーソン2人へのインタビューで締めくくりたいと思います。

H&M Foundation(ファウンデーション)との間で4年間のパートナーシップを結んでから1年目に、HKRITAはコットンとポリエステルの混紡繊維製品を分離しリサイクルする科学的熱水処理手法を開発することに成功しました。この開発にあたっては、日本の愛媛大学と信州大学の協力も得ているそうです。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

今回、話を聞いたのは、エリック・バン(Erik Bang、H&M ファウンデーションのプロジェクト・マネジャー)さんエドウィン・ケー(Edwin Keh、HKRITA代表)さんです。バンさんには主にH&M ファウンデーションの狙いや計画を、ケーさんには研究開発の意欲や将来性を聞きました。

プロジェクトの概要を紹介したリポート第1回はこちら、研究開発の現場を体験したラボ(研究所)訪問編リポート第2回はこちらをご覧ください。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

■Erik Bang(エリック・バン)さんへの質問

Q.(宮田) リサイクルの取り組みは多くのアパレル企業が進めていますが、技術開発にまで踏み込んだ取り組みは珍しいようです。どうして単に店舗でリサイクルを受け付けるだけではなく、技術開発にまで取り組もうと考えたのでしょうか?

A.(バン氏) まず背景としてあったのは、まだ存在していない混紡繊維をリサイクルする技術を見つける必要です。私たちH&M ファウンデーションは9人のスタッフしかいませんが、世界に幅広いネットワークを持っており、最終的には大きな規模の団体とも言えます。だから、私たちが直面している問題を解決し、本当に価値のあるプロジェクトを行いたいと思い、今回のようなリサーチプロジェクトに貢献したいと思いました。

私たちが目指していることには、莫大な費用が必要となりますが、HKRITAと一緒に取り組むことによって、さらに(政府のような)外からの資金援助も受けることができ、本当に価値のあるプロジェクトを実現させることができました。

私たちのゴールは、実際に機能するテクノロジーを開発し、市場でも使えるものにし、さらに、ファッション業界全体で適応できるものを開発することです。そして、ファッション業界の移行を促進し、人類が安全に活動できる範囲内を意味する「地球の境界(Planetary Boundary)」の内側で運用できる仕組みを作りたいと思いました。

 

◆地球の人口は日々増加。しかし、地球上の天然資源は限られている

Q. リサイクル技術開発を始めたモチベーションは?

A. 地球の人口が日々増加しています。そして、必然的に衣服の需要も増えていきます。しかし、私たちが必要とする地球上の天然資源は限られており、私たちがこの資源を使うことは、地球に悪影響を与えます。だから、この状況を変える必要があると思いました。この問題はファッション業界だけでなく、全ての業界が直面している問題となります。

 

Q. リサイクル技術の開発を進めている研究機関はいろいろとありますが、どうして香港のHKRITAを選んだのでしょうか? HKRITAの研究にはどういった点で満足していますか?

A. 世界中でパートナーを探しましたが、HKRITAは私たちにとって完璧なマッチでした。私たちが直面する問題に関して、同じ方向を目指しており、同じように辛抱強く、さらに、お互いに同じように将来に対するビジョンを描いていました。

さらに、HKRITAは香港という、とても戦略的な場所にあります。香港では研究成果を、実際に商業化できる環境も兼ね備えています。ですから、私達が直面している問題について、ファッション業界で実現可能な現実的解決策をすぐにでも見つけたいと思いました。そのためにHKRITAを完璧なパートナーとして選びました。

 

Q. HKRITAの研究成果はH&Mのサステイナビリティ戦略にどのような効果をもたらすと期待していますか?

A. 私たちが今の問題を解決したら、次の問題にもすぐに取り組むことができるでしょう。しかし、ファッション業界全体で実用化できて、さらに、業界全体に影響(インパクト)を与えるようなものを創出するという、私たちの根本的な戦略が変わることはありません。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

◆全ての選択がサステイナブルになれば、消費者は必然的にサステイナブルを選ぶ

Q. 目指す「インパクト」とは、どのようなものを指しているのですか?

A. 現在、76億人近くの人が地球に住んでいます。この全員にサステイナブルな選択を促すことはできません。一人ひとりが異なる環境にいて、それぞれの選択のし方も異なってくるからです。だから、業界全体が適応できるような解決策を見つける必要があります。全ての選択がサステイナブルになる必要があります

例えば、H&Mが100%循環型のファッション業界を目指しているように、いろいろなブランドがそれを実現し、全てのファッションの選択がサステイナブルである仕組みを目指す必要があります。それこそ、ファッション業界が新しいビジネスの形態として目指すべきことだと思います。

 

◆地球が安全になれば、人々の生活水準は向上する

Q. リサイクルは廃棄物削減や企業イメージアップ、環境負荷軽減など、様々なメリットを企業にもたらしますが、H&Mではこれらのメリットにどのような優先順位を付けていますか? エシカルファッションへの関心が高まる中、消費者からの支持や共感を受けるうえで、地球にやさしいブランドであることの意味はますます大きくなっていると感じますか?

A. H&M ファウンデーションとして優先順位のトップに位置付けたいのは、「人々」です。人々にあらゆる利益をもたらして、生活水準を上げることが、私たちのミッションです。私たちが地球環境の保全に取り組めたら、それが人々の生活水準の向上にもつながります。

古着回収で循環型のファッション業界を目指すことは、ビジネス的にも業界的にも利益につながります。さらに、現実的に実現可能で、業界全体に影響を与えることができます。

これは、チャリティー的な取り組みとは異なり、最終的には企業にも還元されるような、win-winの取り組みとなります。私達のミッションは、メッセージを広げること、そして、カスタマーとの接点をもっと創出して、カスタマーに気がついてもらうことです。さらに、カスタマーに喜んでいただけたら、とても嬉しいです。

 

Q. 今後、消費者はもっと変わっていくと思いますか?

A. はい、たくさんのカスタマーの意識がすでに変わっており、今後もさらに変わっていくことでしょう。しかし、いつになっても変わりたくないし、変わらないカスタマーがいることが現実です。だから、何を選んでも、全てがすでにサステイナブルである状態を創出する必要があります。

サステイナブルであることは、お金をもっと払う必要があったり、デザインがナイスでないなど、あまり良いイメージがありませんが、その状況を変えて、良いイメージのものに変えたいと思っています。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

■Edwin Keh(エドウィン・ケー)さんへの質問

Q.(宮田) 「100%循環型のファッション業界を目指す」という研究が進んでいると聞きます。従来の研究と、100%循環型志向の研究では、どういったところに違いがあるのでしょうか?

A.(ケー氏) 従来のリサイクルというのは、主にメカニカル(機械的)なものになります。メカニカルな工程とは、素材を破り、分別して、繊維を取り出すのですが、その後、その繊維の質は衰え、カーペットや部品など、本来の衣類よりも価値の低いものに作り替えられます。私たちが新しい開発で目指したのは、繊維の質を保ちながら、価値の高い商品を生み出すことです。

 

◆「服から服へ」のリサイクルにつながる技術

Q. クオリティーが高いということは、ファッションになるということですか?

A. そうです、「アパレルからアパレルへ」のリサイクルを目指しています。今日の段階で、ペットボトルからTシャツを作ることは可能ですが、一度しかできません。分子構造が変わり、繊維も弱くなるからです。私たちが目指したのは、衣服の質を保ちながら、回数に限りなくリサイクルできることです。

これまで混紡繊維を(混ぜる前のポリエステルとコットンのように)分けることは不可能でした。単一繊維(ペットボトル、コットン)から繊維を抽出することは可能ですが、混紡の繊維を分別・抽出すること、そしてそこから衣服を作ることは今まで不可能でした。でも、今回のプロジェクトでそれを実現させました。

 

Q. 混紡から抽出した繊維から、さらに新しい素材を作ることは可能でしょうか?

A. 研究室で見てもらったセルロース(コットン)に関しては可能です。何らかの新しい素材を作ることができる「かも」しれません。

 

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◆食べ物の廃棄物から新素材が誕生

Q. 今後はHKRITAのような研究機関が全く新しい素材を作ることを担うようになるかもしれませんね。

A. そうです。既に食べ物の残りかすやカフェのコーヒーからポリエステルを作りました。メディア関係者に配ったギフトに含まれているキトサンのハンカチも、貝などから抽出したものを、繊維に混ぜて作りました。

キトサンは値の張る原材料なのですが、私たちはコストを抑えて作る方法を見つけました。赤ちゃんが着用することのできる抗菌の素材も作り出しました。

 

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◆まるで魔法のよう!? 身につけると変化する素材まで

Q. 着るだけで肌が白くなったり、体重を減らしたりできる素材もあったら良いなぁと思うのですが。個人的にも欲しいです。

A. その可能性もあります。保湿効果のある素材や、薬を浸透させることのできる素材なども作れます。

 

Q. 香港は国際都市として有名です。研究の拠点が香港にあることのメリットは何でしょうか?

A. 香港は世界の中心地であり、ファッション業界の人も世界各地から集まります。世界のトップクラスの人とのコラボレーションが可能となります。先日、サステイナブル・ファッション・サミットが開催されましたが、ファッション業界のサプライチェーンの人が大勢集まりました。紡績業者、衣服製造業者、ブランドオーナーなど、立場の異なる参加者が同じ部屋に集まりました。こういうことが可能なのも、香港にあることのメリットです。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

 

◆インタビューを終えて

バンさんのインタビューで驚いたのは、単にサステイナビリティ度の高い繊維素材を開発しようと試みているのではなく、あらゆる商品にサステイナビリティを定着させようと目指しているところです。衣料品だけではありません。全産業にまで意識が届いています。しかも、たくさんある選択肢の一つにサステイナビリティ商品を加えようというレベルではなく、サステイナビリティを商品開発の前提や必須条件のような段階にまで押し上げていきたいと願っています。企業が直接にではなく、独立した非営利団体を通すことによって、このようなプロジェクトが可能になっているのでしょう。

ケーさんの言葉からは研究者としてのプライドや社会貢献の熱意が伝わってきました。服を着れば、体重が軽くなるといった、夢物語のような質問にも真顔で実現可能性を語るあたりには、ファッションを取り巻く技術開発が私たちの常識よりもずっと先へ進んでいる様子がうかがえました。

自在に着脱できるタトゥーのような服や、美肌効果の期待できる服、眠気を抑えてくれる服などにも夢が膨らみます。漫画『ドラえもん』に登場するような未来のテクノロジーが相次いで実用化される今、ファッションの世界にも新たな「産業革命」が訪れる予感が強まった香港取材でした。

 

「衣服サステイナビリティ」の将来性を聞く 「H&M Foundation×HKRITA」インタビュー編

~関連記事~

(第1回)
リサイクルとサステイナビリティの違いって? なぜ必要なの? 「H&M」香港ショールーム訪問編
https://riemiyata.com/work/19404/

(第2回)
驚きの発明「服の混紡繊維を分離する技術」 「H&M Foundation×HKRITA」ラボ(研究所)訪問編
https://riemiyata.com/work/19703/

 

H&M Foundation
http://hmfoundation.com/

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