2017年度(第35回)の毎日ファッション大賞の授賞式が11月29日に開催されました。今回も推薦委員を務めた私も参加しました。ファッション業界の著名人や関係者が集まり、東京・恵比寿のEBiS303で開催された授賞式で、受賞したみなさんの喜びの声を聞いてきました。
新人賞・資生堂奨励賞を受賞したのは、「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」の中里唯馬デザイナー。パリでオートクチュール・コレクションを発表しています。今回の授賞式でも7月にパリで発表した2017-18年秋冬シーズン向けのオートクチュールをランウェイショーで見せてくれました。
「ファッションの道はオートクチュールにあると信じて進んできた。将来は誰もが一点物を着られるようにしていきたい」と中里氏は語りました。オートクチュールには手間が掛かり、値が張るという現実がありますが、テクノロジーの進化が「誰でも一点物」の未来を可能にすると、中里氏は期待。「マスカスタマイゼーションのレディ・トゥ・ウエアを出していきたい」と今後のプランを明かしました。
スタートトゥデイが採寸用ボディスーツの無料配布を始める動きに関しても意義を認めながらも、採寸やパターンづくりの先を「デザイナーがとりまとめていかなければいけない」と述べ、クリエイターがきちんと服作りを担うことの重要性を強調していました。
鯨岡阿美子賞を受賞した、スタイリストの高橋靖子氏は「50年も経っていたんだという感じ」とこれまでのキャリアを振り返り、「飽きずに楽しくやってこれた」と満足げでした。この日のスタイリングは「コム デ ギャルソン」のジャケットとトップスを組み合わせていましたが、実は新作のジャケットと、以前のシーズンのトップスをミックスしたタイムレスなコーディネート。パッチワークが両方に共通しているところに着目した、さすがの合わせ方でした。
話題賞はアシックス(ASICS)が受賞しました。会長兼社長、CEOの尾山基氏は、1949年に創業し、77年にアシックスとなったヒストリーを振り返りつつ、「世界で戦っていけるようなブランドになっていった」と評価。
2002年のミラノとパリのファッションウイークの際、飛行機の中でファッションモデルがアシックスを履いていたのを知り、ファッションのプロからも認められるブランドになったと感じたエピソードを披露しました。近頃では「アンリアレイジ(ANREALAGE)」とのコラボレーションでも話題を集めています。尾山氏は「アスレジャーを世の中に広めていきたい」と意欲を示していました。
同じく話題賞の「ギンザ シックス(GINZA SIX)」は早くも銀座の新名所となった感があります。GINZA SIXリテールマネジメント・代表取締役、桑島壮一郎氏によると、百貨店という業態にとらわれない新発想の商業施設開発はとても難しかったようです。物販以外にもアート要素や能楽堂、観光、防災なども兼ね備えた、銀座の中核的施設となっています。売り上げは順調に推移しているようで、圧倒的な存在感をアピールするために、プロモーションやイベントの発信に一段と力を入れていくそうです。
特別賞はニット編み機メーカー、島精機製作所の島正博会長が受賞しました。島精機は服を縫わないで、丸ごと編み上げることのできる無縫製ニット横編機「ホールガーメント」で知られています。
島氏は2002年に鯨岡阿美子賞も受賞しています。「無縫製ホールガーメントが評価されてうれしい。縫い目のないニットは着る人をエレガントに見せてくれるのに加え、流通面でもロスが少ないので、エコフレンドリーでもあるそうです。1995年に世界初のホールガーメントを開発した島精機製作所はファッションの世界に変革をもたらしました。
人の手がかからず、ミシンも必要ない仕組みはニットの普及と、デザイン面の自由度アップに計り知れない貢献をし続けています。この秋冬では「ユニクロ ユー(Uniqlo U)」からホールガーメントの「3D U-Knit」ドレスが登場し、ヒット。ホールガーメントはさらにファッションを進化させてくれそうです。
大賞に選ばれた吉原秀明氏と大出由紀子氏は「ハイク(HYKE)」のデザイナーデュオです。1998年に立ち上げた「グリーン(green)」で高い評価を受け、10年の節目にいったん休止。約4年間の休み期間を経て、新ブランド「ハイク」としてリスタートしました。
吉原氏は4年間の休止を挟んだ一連の流れを「個性的な歩み」と思い返し、今回の受賞が「自分たちは間違っていなかったのだと、背中を押されたように感じます」と、大きな栄誉を受け止めていました。大出氏も「グリーン」時代からのスタッフ、工場などのチームがずっと今の「ハイク」でも一緒にチームであり続けていることへのうれしさと感謝を語りました。
オートクチュールへの参加、アスレジャーの浸透、ニット技術の深掘り、そして性別やシーンにとらわれない服作りなど、グローバルな動きを先取りするかのような取り組みや成果が評価されたのが、今回の特徴だったように見えます。そういった成果を導いた受賞者・企業に共通しているのは、信念、哲学とも呼べそうなほど強固な意志。トレンドや売れ筋に目が向かいがちなファッションビジネスの世界ですが、突き抜けた成功に到達するには、むしろ頑固なまでの迷いのなさが欠かせないのだと、あらためて感じた授賞式でした。
Photographer Ko Tsuchiya
第35回「毎日ファッション大賞」
http://macs.mainichi.co.jp/fashion/