ファッションジャーナリストの久保雅裕氏が著書『アパレルビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を出版しました。タイトルが端的に示す通り、アパレルファッションの全体像をビジネスの側面からわかりやすく整理した好著です。
いつでも朗らかな著者はファッション業界人から「久保さん」「くぼっち」と呼ばれる、気さくな人柄で知られています。ファッション業界でのキャリアは1990年に入社した繊研新聞社に始まり、セレクトショップのマーケティングディレクターも経験。2022年からは一般社団法人東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)の代表理事・議長を務めています。
ファッションビジネスを解説した本はいろいろありますが、この本が類書と異なるのは、行間にファッション業界への愛があふれているところです。「ビジネス」とうたう大半の本は割とクールな分析形式で書かれています。でも、本書は客観性や正確さを兼ね備えつつ、同時にヒューマンなあたたかみを帯びています。
「CFD TOKYO」のトップを務める、現在の立場はクリエイターやブランドを応援し育てる役割です。業界紙の記者として長年、アパレル業界を見詰めてきた著者は全体を俯瞰しながら、課題や困難にも目を向けています。アパレルビジネスに携わる人たちに本書をお勧めしたい理由です。
業界の読み解き本は一般的に全体像の把握を主眼に据えています。それ自体は有益なのですが、まとまりを欠く総花的になりやすくなりがちです。しかし、本書は全体像をきちんと示しながらも、具体例やファクトを盛り込んで、リアルな理解を助けます。ビジネスの実態を深く知る著書ならではの書きぶりです。
各章に設けられた「カシミヤ」「縫製」「パリコレ」といった切り口がアパレルビジネスの様々な側面を照らし出します。「SPA」「リアル店舗」「物流」など、華やかなイメージの裏側でビジネスを支える基盤にも着目。「服が売れない」といわれる時代との向き合い方を示唆しています。
本書を読んでいて感じたのは、自然と引き込まれるような語り口の心地よさです。トークショーや講義、MC(司会進行)なども得意な久保氏ならではのなめらかさ。まるでセミナーを聞き入っているような気分になりました。これからファッション業に足を踏み入れる人にとって好適な「教科書」であるのはもちろん、既にファッションビジネスに携わっている人にとっても気づきの多い「強化書」です。