わざわざ旅に出掛けてまで訪ねたいレストランを「デスティネーション(目的地)レストラン」と呼びます。同じように、旅行の主な目的に据えたくなるおしゃれショップが「デスティネーションストア」。長野県上田市にあるセレクトショップ「EDISTORIAL STORE(エディストリアル ストア)」は、その代表例です。オープンから5年目を迎えたこちらを訪ねました。
上田市出身の著名スタイリスト、小沢宏(おざわ・ひろし)さんが2022年にオープンしました。小沢さんはトップスタイリストの一人。たくさんの雑誌でビジュアルを任されてきました。現在もコンサルティングのような形でいろいろな仕事を手掛けています。その小沢さんがキャリアの集大成とも呼べそうな仕事として選んだのがこれまでにないオンリーワンの業態「EDISTORIAL STORE」の立ち上げです。
取り扱っている商品は基本的に有名ブランドで長く倉庫に眠っていた、いわゆる「デッドストック(経年在庫)」の品々です。でも、小沢さんはこれらを「LIVE STOCK(ライブストック)」と名づけて、新たな魅力を引き出し、「EDISTORIAL STORE」に並べています。「死(デッド)」を「生(ライブ)」に逆転させる、小沢さんならではの発想です。
プロフェッショナルとしての小沢さんが特別なのは、スタイリングと編集(ライティング、エディット)の両方に秀でている点です。一般的にはスタイリストとライター&エディターは別々の職種。両方をこなす才人はそう多くありません。小沢さんはその稀有な一人。「EDISTORIAL STORE」という名前からも「編集」を重んじる意識がうかがえます。
長期在庫品のさばき方には既にいくつかの業態があります。たとえば、ニューヨークには「Century 21」のようにデッドストックや過剰在庫を販売するディスカウントデパートがあります。流通が滞っていた商品に、別の出番を用意するという意味ではアウトレット店や売れ残り処分店もあります。
「EDISTORIAL STORE」がそれらと大きく異なるのは、小沢さん流の「編集」というフィルターを通している点です。「売れ残り品」として価値を低く見るのではなく、「今だからこそ着たい服」としてもう一度選び直しています。買い手がワードローブに迎えたくなるような切り口を用意して提案するのは、エディターの目利きを生かした「再編集」の技法と呼べるでしょう。
リアル店舗で見た品ぞろえは「ライブストック」という呼び名がしっくりきます。今のトレンドや買い手のマインドなどを見極めて、「期待(着たい)値」を高めているかのよう。「死に筋」ではなく、「生き筋」です。長年にわたって雑誌づくりに携わってきた小沢さんならではの感性によって、服に新たな価値が吹き込まれているように感じました。
ビル1本を丸ごと小沢さんがプロデュースしています。売り場はビルの1階から4階まで。もともとはクルミ菓子を製造・販売していた店舗兼工房だったそうです。だから、建物内には製品を運んだ館内エレベーターが建在。レトロ感を醸し出しています。建物の歴史に敬意を払って、「KUDOU WALNUT」の看板が外壁にそのまま残されているのも素敵なところ。建物全体に「ヴィンテージ」への敬意が漂っています。
「EDISTORIAL STORE」では「BEAMS(ビームス)」や「JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)」などのセレクトショップからも協力を得ています。名前が示す通り、セレクトショップはもともと商品選びが強み。その経年在庫品を選び抜いた「EDISTORIAL STORE」のラインアップには、「セレクトショップのセレクトショップ」とも呼べそうな「二重の目利き」が働いています。
お邪魔した日に店頭で見たアイテムでは「Maison Margiela(メゾン マルジェラ)」のタビ・レインブーツを発見。そのほかにも、「DRIES VAN NOTEN(ドリス ヴァン ノッテン)」や「GANNI(ガニー)」「Hender Scheme(エンダースキーマ)」など、魅力的なブランドのアイテムがいっぱい。一方、あまり有名ではないけれど、実際に店頭で見ると、有名でないのが不思議に思えるほど素敵なアイテムも。これだけの商品をそろえられる小沢さんの人脈、信頼度に圧倒されました。
商品一つひとつに添えられた手書きの札は隠れた見どころです。小沢さんがなぜそのアイテムを選んだのか、どんなブランドなのかなどを自筆で書き込んであります。たとえば、「これぞジョン・ガリアーノならではのマルジェラ!だと僕は断言する」といった具合です。
短めのエッセイのように、自分の言葉でつづられていて、お客様にその商品のよさを伝えたいという誠実な思いが感じ取れます。文章自体はオンラインショップの各商品ページにも転記されていますが、店舗を訪れて、手書き文字を見ると、小沢さんの情熱をさらに実感できるはずです。
商品のプロフィルやバックグラウンドを知ると、目の前のアイテムが一段と深い意味を持って映ります。いつのシーズンの品なのか、サンプル品か、デッドストック物か、リメイク物かなどの付随情報が記されているのは、買う際の安心感につながるうれしい配慮です。
商品にまつわる事情や背景が分かるので、納得しながら選べるのは、一般的なアウトレットや二次流通店にはないポイント。文字を通して商品選びが楽しくなる体験は、「EDISTORIAL」を掲げる店ならではです。
アウトレットや二次流通店の商品扱いには「売りさばく」という表現を用いることが一般的です。この動詞には売れ残った厄介物を「処分」するといったネガティブなニュアンスがうかがえます。
でも、小沢さんの店で感じるのは、たまたまうまく買い手と巡り会えなかった逸品を、新たな手つきでお客様に「届ける、案内する」というポジティブなレコメンド(推薦)の気持ち。商品と買い手の両方に寄り添うマインドです。だから、単なる「売り場」ではない「出合い場、語り場」といった雰囲気が建物全体を包み込んでいます。
常識や先例にとらわれない小沢さんの自由な発想が4フロアのあちこちにうかがえます。たとえば、車輪付きの可動式ショーケースもそう。簡単に売り場レイアウトを変更できるしくみです。見覚えのある陳列棚は「BEAMS」の店頭で使われていた品。ディスプレーの巧みなコーディネートはさすがのお手並み。工事現場の照明に使われていたというライティング機器は程よい武骨さと工業感をフロアにもたらしています。
1階エントランスを入ってすぐのところにあるのは、コーヒースタンドの「EASY BAKE(イージーベイク)」です。各種ケーキやマフィンなどを、コーヒーや紅茶と一緒に味わえます。1階奥の「Bon Cadeaux(ボンカドゥ)」はラッピング用やギフトグッズ、アンティーク雑貨などをそろえています。フランス語で「素敵なプレゼント」という意味。東京・恵比寿から移転オープンしました。
上田を訪れて驚いたのは、首都圏からのアクセスのよさです。北陸新幹線に乗れば、東京駅からわずか1時間半。「EDISTORIAL STORE」には駅前から歩いて10分ほどです。十分に日帰りが可能ですが、おいしい食べ物が多いのに加え、近くに温泉も湧いているので、泊まりがけの小旅行がおすすめ。軽井沢と松本の間に位置しているから、どちらかを絡めた周遊なら、さらに出掛ける楽しみが広がります。
もしすぐに上田を訪れるのが難しければ、まずはオンラインショップをのぞいてみてください。アイテムごとの魅力が書き込まれた文章からは、小沢さん流の目利きや、ファッションへの思いが伝わってきます。
すべてのフロアを自ら案内して、丁寧に説明してくださった小沢さんの言葉からはファッションと店舗への深く濃い愛情が伝わってきました。おしゃれの新しい楽しみ方を知り、物の価値をとらえ直すきっかけを与えてくれる場所です。1階のコーヒースタンド「EASY BAKE」でひと息つきながら、ギャラリーを巡るような感覚で過ごせるのも魅力です。長野・上田を訪れる機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてください。
・店舗案内
EDISTORIAL STORE(エディストリアル ストア)
住所 長野県上田市中央2-3-7 KUDOUビル
電話番号 0268-75-8373
営業時間 12:00~18:00
定休日 火・水曜
アクセス 北陸新幹線・しなの鉄道「上田駅」から徒歩10分
instagram @edistorial_store
URL www.edistorialstore.com




























