現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生描く 映画『ある画家の数奇な運命』

現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生描く 映画『ある画家の数奇な運命』

映画『ある画家の数奇な運命』は、現代美術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに、ナチス・ドイツの忌まわしい歴史を含めた、現代ドイツ史を照らし出す作品です。後に妻となる女性エリーの装いは、ダークな物語に貴重な彩りを添えています。

ナチ政権下のドイツで、主人公の少年クルトはアートを好む心を芽生えさせます。美術の世界に導いたのは、美しい叔母。でも、精神のバランスを崩した彼女はナチス政策のせいで、強制入院に追い込まれます。

 

現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生描く 映画『ある画家の数奇な運命』

戦争が終わった後、クルトは東ドイツで美術学校へ進みます。そこで出会ったのがエリー。服飾コースの学生だっただけに、エリーはなかなかのおしゃれ。社会主義国の東ドイツだけに、あまり派手ではありませんが、グッドセンスを感じさせる装い。クラシカルなレディーライクスタイルでこの秋冬ファッショントレンドとしても参考になります。大物医師を父に持つので、それなりにリッチで、貧乏学生のクルトに比べて、大人びて映ります。

愛を育んだ2人はやがて結婚。「国家に尽くすべきだ」という、東側のアート思想に疑問を感じたクルトはエリーを連れて西ドイツへ。最初のうちは西側の創作スタイルに戸惑った彼でしたが、徐々に才能を発揮していきます。

 

現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生描く 映画『ある画家の数奇な運命』

一方、常に自分を「教授」と呼ばせたがる、エリーの父親はクルトを見下した態度を取り続けます。しかし、クルトが新境地を開いた作品を見て、なぜか恐怖に襲われる義父。大物医師が隠し続けた忌まわしい過去とは――。

歴史の暗黒面にまつわる重たいテーマを下敷きにしていますが、若き芸術家の成長物語という軸がしっかりしていて、3時間余りの長尺を意識させません。芸術家人生へ導いた叔母と、クルトに寄り添うミューズであり続けるエリーという、2人の女性の存在も、彼の人間味を引き出しています。

どの部分が史実かは、明らかにされていませんが、偉大なアーティストの生い立ちに、時代や国家が影を落としていたことがうかがえます。アートに興味を持つ人にとっては、見る価値の大きい作品と言えるでしょう。戦後75年の節目を迎えた今年だけに、なおさら考えさせられるところの多い映画です。

 

現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生描く 映画『ある画家の数奇な運命』

『ある画家の数奇な運命』(2020年10月2日公開)
(原題:Never Look Away)
公式HP:neverlookaway-movie.jp
10/2(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
(C)2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

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