『誰がアパレルを殺すのか』という問いかけ

長く連載をさせていただいている日経ウーマンオンラインでは、これまでに何人もの編集部の方にお世話になりました。担当してくださった方のなかでも、丁寧なお仕事ぶりが記憶に残っている1人が、日経BP社の染原睦美さんでした。今回、染原さんが同じBPの杉原淳一さんとの共著で『誰がアパレルを殺すのか』(日経BP社刊)を出版しました。タイトルがややショッキングですが、アパレル業界をただ批判している内容ではなく、苦境にあえぐ現状と、そこに至った原因を、丁寧な取材で解き明かそうと試みています。

アパレル業界の不振が続いていますが、すべての企業、業態が沈んでいるわけではありません。たとえば、日本発ファッションを世界に発信するセレクトショップで急成長する「TOKYO BASE(旧STUDIOUS)」は東京証券取引所第1部への上場も果たしました。ファッションアイテムのレンタル市場も拡大が続き、個人のハンドメイド品を扱うマーケットもファン層を広げています。

本書が指摘するように、アパレル業界で比較的苦戦が続いているのは、変化を怖がって、革新を先送りしてきた企業に目立つようです。著者はこうした企業が抱え込んだ「内輪の論理」が成長を妨げたと分析。生物進化論でいわれる「最も変化に強い種が最も生き延びやすい」のように、消費や生産の環境変化を素早くかぎ取って常にビジネスモデルや商品・サービスを磨き直す必要性を問いかけています。

ただ、闇雲に変化を求めているわけではありません。糸や染料にまでさかのぼる、誠実なクリエーションで知られる「ミナ ペルホネン」のような事例を紹介して、浅薄なマーケティングや目先のコストカットは本当の意味での成功につながらないことも示唆しています。顧客が新作発売を指折り数えて待つような理想的エンゲージメントを実現している「ミナ ペルホネン」は時間をかけて信頼を積み上げてきました。

「TOKYO BASE」が特徴的なのは、店長が自分の受け持つ店の仕入れや販売促進策を決めることができる点にあります。バイヤーやショップ経営者と同じような責任の重さがやりがいにつながるわけです。本書には注目企業の経営者へのインタビュー記事もあり、興味深い内容となっています。ファッションビジネスに携わっている人であれば、川上から川下までどこに位置している人にも「気づき」のある本です。

誰がアパレルを殺すのか
http://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/17/260970/

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