「KENZO(ケンゾー)」ブランドの創設者)、高田賢三氏の功績や人物像をつづった本『高田賢三と私』(鈴木三月著、時事通信社刊)が出版されました。賢三氏の人間味が伝わる、ハートウォーミングなエピソードがたくさん詰まっています。著者は賢三氏のビジネスパートナー、プライベートマネージャーとして37年間を支えた鈴木三月さんです。
賢三氏と鈴木さんとの出会いをはじめ、運命的としか思えないエピソードに、2人の不思議なご縁を感じます。あちこちにあふれているのは、賢三氏のチャーミングな人となり。とにかく謙虚でありつつ、行動力がすごい。空気を読みすぎる、今の人たちにはちょっと真似ができないほどの行動力を強みに、どんどん前へ進んでいく感じで、痛快なヒューマンヒストリーとして一気に読めます。
世界的なデザイナーとなってからの賢三氏のイメージが一般的には強いと思われますが、本書ではおちゃめな賢三氏のキャラクターがたくさんの逸話と共に紹介されていて、くすっと笑えます。賢三氏の知られざる側面を教えてもらえるのは、本当に近い立場だった鈴木さんの観察ならでは。鈴木さんが秘蔵する、思い出の写真の数々も当時の雰囲気を印象的に伝えてくれます。
本書を読むと、1980年代以降はブランドとデザイナーにとって波の高い時代だったことがうかがえます。それでも賢三氏らしさを失わない、穏やかで人なつこい人柄の素晴らしさ。ブランドの買収に伴い、60歳で「KENZO」を離れた当時の葛藤も伝わってきて、ファッションブランド史としても読み応えがあります。
考えてみれば、日本人デザイナーのパリ・コレクション参加ブランドがグローバル資本に買収されたのは、「KENZO」が初めてで、それだけ世界的なブランド価値を認められていたとも言えそうです。その後、いろいろなデザイナーを経て、今は再び日本人のNigo氏が任されていることにも不思議なつながりを感じます。
賢三氏が亡くなった後、たくさんの評伝や追悼記事が出ましたが、最も近い場所から40年近くも賢三氏を見つめ続けた鈴木さんの言葉はさすがに重みと深みが別格。デザイナーだけではなく、ヒューマンヒストリーを知ることのできる読み物に仕上がっています。
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