ファッション&ラグジュアリー文化の専門家で、服飾史家の中野香織さんの著書『エレガンス入門』(ちくまプリマー新書、筑摩書房刊)を読みました。読みやすい文章でありながら、内容は深く、「エレガンス」という言葉の見方が大きく変わる好著です。
「エレガンス」と聞くと、多くの人は「上品」「優雅」「洗練された」といったイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。ファッション誌やブランドの説明文にもよく登場する言葉ですが、実際には何を意味するのかと聞かれると、日本語ではっきり定義するのは難しいところがあります。
これまでエレガンスの本質をしっかり指し示してくれる本は見当たらない状態でした。本書のよさは、エレガンスという言葉の成り立ちを説明しているだけではなく、私たちが日々の生活に「実装」できる形で、エレガンスを提示している点です。つまり、エレガンスを「取扱説明書」のレベルにまでかみ砕いて、様々な選択に役立つ私的戦略や人生哲学ととらえ直しているのです。これまで誰も思いつかなかった発想で、エレガンスをぼんやりした「謎ワード」から脱皮させています。
ファッションの世界では「抗(あらが)う」がキーアティチュードになってきました。反骨や不従順のメッセージを、ずらし、崩し、サプライズなどの着こなしアレンジという形で表現する動きが強まっています。その背景には、「みんなと同じでなくてもいい」「自分らしくありたい」という価値観があります。エレガンスは単なる整った見た目のほめ言葉ではなく、自分流に社会と折り合う技法として、語義本来の重みを増してきたようです。
本書では古代ギリシャやルネサンス、西洋文学や日本近代文学など、幅広い視点からエレガンスを考察しています。ココ・シャネルやダンディズムの思想に触れながら、エレガンスが服装の領域にとどまらず、生き方そのものに関わる概念であることを解説しています。ファッション好きはもちろん、歴史や文化に興味のある人にとっても読み応えのある内容です。
タイトルには「入門」とありますが、読み終えた後に感じるのは、入門書以上の奥深さです。「エレガンス」の本質を知るということは、ファッションの領域を超えて、自らの思考や判断の「軸」を反逆的に打ち立てることにつながります。
つまり、本書は社会・世界との対決に導く点でも「入門書」となり得るでしょう。「世界と仲良くしすぎない」というキーフレーズが印象に残りました。納得しにくい出来事が相次ぐ中、多くの読み手が、自分なりの「エレガンス」とは何かを考え、主体的に選び取る大切さに気づくきっかけを与えてくれる一冊です。
エレガンス入門
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480685568/
中野香織氏オフィシャルサイト
https://www.kaori-nakano.com/


