買い物の新しい「かたち」を探る動きがファッション業界で広がってきました。「ZARA(ザラ)」を展開する、インディティックスもICT(情報技術)を活用した取り組みを重ねています。2018年5月9日(水)、日本では初となる「ZARA POP-UP SHOP ONLINE」というポップアップストアが東京・六本木にオープン。ZARA六本木店がリニューアルオープンするまでの期間限定のショップになります。前日のプレスプレビューに行ってきました。
各社がアイデアを競っている、新タイプのショッピング提案では、「何を省くか」の知恵を絞っています。商品を選ぶ手間、試着の時間、持って帰る面倒など、様々なマイナス要素を削ることによって、お客様のストレスを遠ざけ、買ってもらいやすくするというのが大きな流れです。今回のZARAの試みでも、試着や支払いなどの負担をやわらげる工夫が施されています。
まず、スマートフォンに専用アプリをダウンロードします(今回の六本木店ポップアップのみ利用可)。そして、店内に並べられているアイテムをチェック。試着したい商品を探します。
たとえば、ワンピースが気に入ったとしましょう。商品に添えられたコードをスマホに読み込ませると、試着の準備が整うまでの待ち時間が表示されます。待ち時間が来るまでは店内を回って待ってもいいし、店を離れても構いません。準備が済むと、スマホに通知が届きます。
フィッティングスペース(2階)へ向かうと、割り当てられた個室には既に試着用のアイテムが用意されています。要するに、手ぶらでフィッティングルームに行けるのです。
通常は売り場で商品を選んだ後、実際に試着するためには、ショップスタッフの許可を得て、フィッティングルームに商品を持ち込む必要があります。ルームに空きがない場合は、商品を抱えた状態でしばらく待たされることもあります。でも、今回のシステムではそのあたりの面倒が省けます。これは気持ち的にかなり楽です。
何点も試着したい場合でも、ちゃんと試着ルーム内に用意されています。通常のショップでは複数の商品を持ち込むには、候補のアイテムをいくつも手に持った状態で次の商品を探す必要があり、腕が疲れます。でも、手に持って歩かないと、別の商品を見ているうちに、別のお客さんに取られてしまう心配があり、重い思いをしながら店内を巡る羽目になりがちです。今回のシステムではそんな手間は必要ありません。スマホにコードをかざすだけで済みます。
試着した状態で個室を出て、広々としたスペースで全身をミラーでチェックできます。たとえば、鏡に写った姿を自撮りしたり、スマホ上での見え具合も確認できるのは、便利な仕組みです。
従来型の試着でも、自撮りは可能ですが、狭い個室内では雰囲気がつかみにくいところがあります。着て歩いた際の肌当たりや、布の動き、遠くからの見え具合、光の透け加減などは個室内ではなかなか確認しにくいので、オープンスペースでのチェックはありがたいサービスです。
試着が済んだ後、購入したくなったら、スマホからオンラインで支払いを済ませる仕組みです(レジでも支払い可能)。早ければ翌日、自宅に届きます。13時までに購入すれば、当日の18時以降に店頭で受け取ることも可能です。
この支払いステップで省かれているのは、スタッフとのやりとりです。実は、試着の後、何らかの理由で買わないと判断した場合、商品を返して、スタッフに断りを入れるのは、ちょっと気詰まりな時間です。
何点も試着した場合はなおさらです。スタッフさんに商品を返したり、または、きれいにハンガーに掛け直して、所定のラックに戻す人もいるでしょうが、どのラックにあったかを思い出してきちんと戻すのは、結構、面倒な作業です。
しかも、その際にスタッフから別の商品を勧められたり、見合わせた理由を尋ねられたりといったことも起こります。今回のシステムでは購入手続きがスマホ経由なので、スタッフに知られることがない点で気持ちの面でのストレスフリーが実現しています。
ショップのフロア構成をフィッティング重視で設計しているので、ゆったりとした空間に陳列されている点も、優雅なムードで商品と向き合えます。スマホにかざすだけで、試着アイテムが個室に用意されているという特別感も味わえます。
店舗を「試着の場」と位置付ける「ショールーミング」に特化したショップは既に先行事例がありますが、ZARAのケースはスマホを上手に組み込んだ、さらに先を行く新サービスと言えそうです。商品とのスムーズな出会いを導くうえで、何を省くべきか、何が購入を邪魔しているのかといった問いかけがきちんと仕組みに落とし込まれている点で魅力的な試みと見えました。
自分が接客していた経験から言うと、お客様が試着してくださるまでが大きな山なのですが、せっかくそこまでたどり着いても、試着後にお戻しされてしまうと、接客したスタッフは気持ちが落ちてしまいがちです。接客に割く時間とエネルギーを無駄にせず、スタッフのモチベーションを保ち、人手不足にも対応しやすい点でも今回の仕組みはメリットがありそうです。
店内には動画で遊べるフォトブース(https://www.instagram.com/p/BigpBiPFDT4/)があり、アミューズメントのような雰囲気も感じさせます。「洋服を買いに行く」というのではなく、おしゃれな遊びを体験しに行くといった、ライトな感覚の機会提案にも新しさがありました。
ZARAは先にAR(拡張現実)を使って、店内のディスプレーにスマホを向けると、モデルがその商品を着た動画が映し出されるという新サービスを提供しています(https://riemiyata.com/fashion/24701/)。今回のショールーミングストアと共通しているのは、ミレニアル世代にとって最も身近なデバイスであるスマホを接点やフックに位置付けているところ。スマホを使って、ショッピングの手間を省いたり、商品選びを楽しくしたりする手法にはまだまだ可能性がありそうで、今後の広がりが期待されます。
ZARA POP-UP SHOP ONLINE
https://www.zara.com/jp/ja/woman-event-1-l1517.html?v1=706677