アメリカンクラシックの伝統を受け継ぐブランド「Brooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)」は、日本でもファンが多いことで有名です。ジョン・F・ケネディをはじめ、多くのアメリカ大統領に愛され、ポロカラー(ボタンダウン)シャツを広めたなど、伝説の尽きないブランドでもあります。今回は日本で始まったばかりのウィメンズのパーソナルオーダーでスーツを仕立ててもらった体験をリポートします。
「ブルックス ブラザーズ」の幅広い品ぞろえの中でも、スーツのクオリティーには特に定評があります。とりわけ、長年の顧客が好むのは、ぴったりのシルエットや好みのディテールに仕立ててもらえる「パーソナルオーダー」。これまではメンズ向けに受け付けてきたサービスですが、2021年2月3日からはブルックス ブラザーズ 表参道とブルックス ブラザーズ 丸の内でウィメンズもスタート。早速、表参道店で体験してきました。
徹底的に自分好みを追求できるパーソナルオーダーはニューノーマル生活を迎え、服と丁寧に向き合いたいと考える人が増えてきた今の流れになじむサービスと言えます。なぜなら、丁寧に服を着る意識は、服を作るところにまでさかのぼっていくから。その服を選ぶ理由は、人それぞれに異なります。本人が細部まで注文を出すからこそ、納得感の高い「オンリーワン服」に仕上がるわけで、自然に愛着も濃くなるもの。自分の分身のようなスーツを手に入れるうえで、パーソナルオーダーは最良の選択肢と言えるでしょう。
オーダーのために訪れたのは「ブルックス ブラザーズ 表参道」。長く「青山エリアの顔」として親しまれた旧「ブルックス ブラザーズ 青山」が再開発に伴い、2020年8月にクローズした直後、同じ青山エリアに昨年9月にオープンしたばかりです。重厚感のあった青山店からイメージを一新。全面ガラス張りの外観はモダンでクール。建物は3層構造で、地下1階にメンズ ドレス、2階にメンズ カジュアルのフロアがあり、ウィメンズは1階です。
今回のオーダーを担当してくださるテーラー(ショップスタッフさん)とご挨拶を交わして、早速、実際の注文作業が始まりました。丁寧に全身を採寸してもらい、体型にふさわしいシルエットを決めていきます。基本のシルエットはジャケットの場合、2型から選べます。私が選んだのは「2ボタン ピークドラペル ショート丈」。ステッチ、裏地、本切羽(袖先の形)、胸・腰ポケット、グログランパイピングなどの細部の仕上げも選べます。
ボトムスはスカート2型、パンツ2型が用意されています。パンツはクロップドとフレアがあり、私はフレアのパンツを選択。スカートはペンシルかタックプリーツのどちらかになります。裾の仕上げはフレアのシルエットとの相性を考慮して、シングルを選びました。
パーソナルオーダーの醍醐味とも言えるのは、生地を選べるところ。今回のサービスでは約600種類の織物から生地を選ぶことができます。種類が最も多いのは、イタリアの生地メーカー「REDA(レダ)」。1865年に創業した、服地メーカーの名門だそうです。「レダ」の強みは、ニュージーランドにある自社牧場で羊を飼育しているところ。生地の仕上げ工程は、イタリアにある自社工場でこなすという、完全な一貫体制を貫いています。こういうメーカーを「ミル(織り元)」と呼ぶようです。
ブルックス ブラザーズのパーソナルオーダーでも「レダ」の生地は最も取り扱い種類の多い、主力級の扱い。次いで種類が多い、もう一つの主力生地メーカーが「CANONICO(カノニコ)」です。レダと同じく、多くの毛織物工場が集まるビエラ地方にあるミルです。一貫生産のミルならではの品質が良く高いコストパフォーマンスも「カノニコ」の大きな魅力。私はいくつもの生地を触った結果、「カノニコ」に決めました。
生地の次に選んだのは、ボタンの種類です。ボタンの種類もいろいろ。多彩なオプションです。シンプルなボタンのほかに、浮き彫り風の装飾が施されたタイプや、布地で全体を覆った「くるみボタン」など、目移りしてしまうほど。ボタンはスーツの印象を左右するので、アドバイスをもらいながらじっくり選んでいきます。服の生地と同系色のボタンは目立ちにくいので、全体のまとまり感が出やすいと教えてもらいました。
このようなプロの助言をもらえるのは、パーソナルオーダーの魅力の一つです。選択に役立つだけではなく、生地やシルエット、ディテールに関する知識が深まり、自然と服への興味も強まる気がします。自分で選んだ服地やボタンだから、出来上がってから実際に着るときも、きっと大切に扱いたくなるに違いありません。
ジャケット用に私が選んだボタンは、「ブルックス ブラザーズ」のシンボルマークである、羊のモチーフ「ゴールデン フリース」をあしらったタイプ。まるでアンティークのような風合いに一目惚れしました。一般的にはネイビー無地のブレザーに使うことが多いそうですが、スーツのジャケットに添えて、オリジナル感の高い着映えに仕上げる効果を期待しています。
表地のほかに、裏地も選べます。全体に裏地を添える「総裏」と、背中部分を省く「背抜き」のどちらかを選べるのに加え、袖の裏地も指定が可能です。私は滑りのよいキュプラ素材の裏地を選んだうえで、背中と袖で色を変えました。背裏はネイビー(ゴールデン フリース柄織り模様)で、袖裏はワインレッド系(ペイズリー柄織り模様)をチョイス。袖をまくり上げたときに、赤い裏地がのぞく演出を狙ったアレンジです。
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オーダーから約5週間ほど楽しみに待つうちに、「出来上がりました」という知らせが届いたので、店頭へ受け取りに行きました。仕上がったスーツを見て、最初に感じたのは、凛とした特別感。テーマの「ヴィンテージシック」をイメージしながら生地やパーツを選んでいったのがよかったのか、期待通りの出来映え。生地はスワッチ(生地見本)を見て選びましたが、実際に仕立てられたスーツを見ると、想像以上にクラス感の漂う仕上がりに感動しました。
ジャケットは織り地の違いで描き出されたストライプ柄が静かに主張しています。控えめなつやめきを帯びていて、光を受けて光沢を宿します。内側で裏地を縫い付けているステッチにはオレンジがかった糸をチョイス。自分だけが知るおしゃれポイントになってくれました。
胸ポケットと腰ポケット(2カ所)は、いずれも本当に物を入れられるポケットです。フラップ(ふた)の裏地にも、しっかり羊のモチーフの「ゴールデン フリース」が姿を見せてくれます。実は正面の2つボタンもゴールデン フリース柄。つや消しのメタリック製です。
両袖のボタンは4個ずつ。こちらもゴールデン フリース柄です。私が選んだボタンタイプとの関係で、袖先が開かない「開き見せ」の造り。ボタンで開閉できる「本切羽(ほんせっぱ)ではないのですが、袖先が少し開くこしらえになっているので、袖を折り返してまくり上げることが可能です。
自分なりに凝ってみたのは、裏地の選択です。背中部分の裏地は、紺色を選んだのですが、両袖は変えました。両袖の裏地カラーは渋めのワインレッド系。袖をまくり上げたときに、印象が変わるような色を選びました。実際にまくり上げてみると、少しだけフェミニン感が加わって、着こなしやすくなる気がしました。
パンツも裏地付きです。サテン調でつやめいたグログラン地のパイピングを施してあるから、スムーズで快適な着心地。ジャケットと同じく、シェイプを利かせた細身のシルエットです。上下をそろえて着ると、一段とシャープな着映えに。ストライプ柄のおかげで、ほっそり感がいっそう強まって見えます。
さっそく着用してみました。まず、驚いたのは、軽さ。生地の素材はウール84%、モヘア14%です。サラッとしたサマーウール感が何とも気持ちよく、いわゆるスーツの印象をいい意味で裏切るライトな着心地です。上品さとあでやかさが融合した、グレーの織り模様ストライプは、人が着ると、さらにしなやかな印象に映ります。
見た目は端正なのに、高温多湿の夏でも快適な着心地と優れた通気性が備わっています。評判の高いイタリア生地「カノニコ」の実力を、袖を通してあらためて感じました。見た目が細身ですっきりしているのに、窮屈感がないのは不思議に思えるほどです。
いろいろな着こなしバリエーションを試してみました。まずは、白のレースブラウスに重ね、足元は白ブーツでレトロモダンなスタイルに整えて。インナーはシンプルなカットソーを選んで、すっきりめに着こなしたり、足元をパンプスに変えて、きれいめに仕上げたりと、いろいろなパターンにアレンジしやすい、使い勝手に優れたスーツです。パンツのセンタープレスがレッグラインが凛々しく見せてくれます。
今度はシンプルな細身のデニムパンツにジャケットというコーディネートにトライ。ブラウスをウエストアウトしたうえ、ジャケットの袖をまくって、アクティブな見え具合に。袖口からチラリと赤い裏地がのぞくのも、適度なアクセントになりました。
白ブラウスと白ブーツは先ほどと同じですが、ご覧の通り、ムードがガラリと変わりました。人気の「B.B.」ベースボールキャップをかぶれば、ぐっとスポーティなルックに様変わり。ジャケットはカーディガンやブルゾンのような感じで、単品で使うこともできます。
最後は、ラッフル付きのデザインニットにスニーカーというコーデで、ロマンティックスポーティなスタイリングにまとめてみました。カジュアルなスニーカーにもこのパンツはなじみます。単品使いの形でも、手持ち服と組み合わせやすそうです。
これらのコーデで分かるように、様々なテイストとミックスして着こなせるのがこのスーツのよさです。イタリア産の上質生地で仕立てた、正統派のスーツですが、意外にも着こなしの引き出しが多く、自在のバリエーションを組み立てることができます。
オーダーの際には、自分流の思いつきを相談すると、プロならではの的確なアドバイスを返してくれるから、いろいろと尋ねてみることをおすすめします。出来上がりのイメージを一つ一つ確認しながらオーダーできるのは、とても安心感が高い進め方。普段、自分が着ている服や好みのスタイリングなどを伝えると、それに合ったテイストで提案してもらえるのも頼もしいところです。
せっかくのオーダーならではの「自分勝手」な希望にも、しっかり耳を傾けてもらえるのは、特別感を味わえる体験。イメージが固まっていくのにつれて、出来上がりがいっそう楽しみになっていきます。
じっくり相談しながらのオーダー体験は、自分のファッションを見つめ直すきっかけにもなりました。プライスもこれだけ細かく希望を聞いてもらえるパーソナルオーダーという形でありながら、ジャケットが¥69,000~、スカートが¥33,000~、パンツが¥36,000~という設定は納得感が高いように感じました。
1818年に創業した、アメリカで最も歴史の長い衣料ブランドである「ブルックス ブラザーズ」。スーツを深く知る人なら誰もが認めるブランドです。日本でも信頼が高く、メンズスーツで評価を確立してきました。そうした長年のノウハウが生かされているのが「ブルックス ブラザーズ」のウィメンズスーツの強みと言えるでしょう。
仕事で着るスーツは、頼りになる1着をワードローブに迎えておくと、本当に大事な場面にも落ち着いて臨むことができます。細部に至るまで丁寧に、自分好みに仕立てられた服は、袖を通すたびに気持ちが引き締まり、誇らしい気分になれそう。「選んで、待って、仕上がるまでのストーリーがある」というパーソナルオーダーのスーツだからこそ、長く大切に着続ける服となるに違いありません。
パーソナルオーダーWomen オンラインカタログ
http://catalog.brooksbrothers.co.jp/brooksbrothers/personalorder-women/
Brooks Brothers 表参道店
http://www.brooksbrothers.co.jp/search/shop.asp?area_id=9&shop_id=125
Brooks Brothers 丸の内店
http://www.brooksbrothers.co.jp/search/shop.asp?area_id=9&shop_id=7
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2022.11.16更新
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