2021年度(第39回)毎日ファッション大賞の授賞式が2021年10月25日に開催されました。光栄なことに、これまでに引き続き(2014年~)、今年も推薦委員を務めさせていただきました。授賞式は東京・恵比寿のEBiS303で開催(オンライン生中継を同時進行)。大賞を受賞した、「TOMO KOIZUMI(トモコイズミ)」の小泉智貴デザイナーをはじめ、受賞した皆さんそれぞれがメッセージを述べ、受賞を祝い合いました。おめでとうございます。
◆大賞 小泉智貴氏 TOMO KOIZUMI(トモコイズミ)
受賞者の言葉で、特に印象深かったのは、大賞の小泉氏でした。「実用性で考えればあまりにもリアリティのない大きなドレスばかり作る、いわばメインストリームのスタイルではないファッションデザイナーとしてのキャリアは、振り返れば平坦なものではなく、苦い思いもたくさん経験してきました」と明かしました。
「それでもデザイナーの道にこだわり続けたのは、10代の頃に体験したファッションへの感動があるからです。デザイナーを目指すきっかけとなったジョン・ガリアーノとは、今年一緒にアメリカン『ヴォーグ』誌のプロジェクトを行うことができました。東京オリンピックでは国歌斉唱の衣装を担当し、そしてこの毎日ファッション大賞まで受賞でき、願ってきた夢が立て続けに叶う年になりました」
「今回の大賞受賞が、量産品でないファッションをデザイン・制作していこうとしている次世代のデザイナーにとって大きな道筋となることを願っています。これからもマイペースに活動を続けながら、ファッションデザイナーとしての多様な在り方を体現していきたいです」
◆新人賞・資生堂奨励賞 高橋悠介氏 CFCL(シーエフシーエル)
新人賞を受賞したのは「CFCL(シーエフシーエル)」の高橋悠介デザイナーです。2020年2月にブランド企業が設立されたばかりという、実質的な初年度での授賞は異例とも言える早さです。ブランド名は「Clothing For Contemporary Life」。高橋氏は「現代生活のための衣服とは何かを常に自問し、衣服を通して少しでも新しい時代に即した豊かさを提案できるよう、邁進して参りたいと思います」と述べています。
授賞コメントの中では新型コロナウイルス禍の中、ブランドを立ち上げたことを振り返り、「ブランドをローンチするにあたり、コロナ禍の前から、ものづくりのあり方をきちんと考えていたので、バイヤーやジャーナリストさんたちに言葉とモノでできちんとプレゼンテーションができた」と語りました。
◆鯨岡阿美子賞 ここのがっこう
鯨岡阿美子賞を受賞したのは、山縣良和氏が2008年に開講した、ファッションを学ぶ学校「ここのがっこう(coconogacco)」です。「ここのがっこう」からは気鋭のデザイナーが相次いで巣立っています。
山縣氏は受賞コメントで「学校を立ち上げて13年間。ファッションが文化として根付いてほしいと、ずっと願ってきました。ロンドンやパリでファッションの勉強してきて、海外と日本の教育の違いを感じていました。ファッション表現を通して彼らが生き生きと成長していく姿を目にすると、私達も生きる力をもらっているように思います」と語りました。
◆話題賞 Snow Peak(スノーピーク)
話題賞に選ばれたのは、アウトドア総合メーカーの「Snow Peak(スノーピーク)」です。1958年に新潟県三条市で創業。人生を構成する5つのテーマ「衣食住働遊」に沿って、様々な事業に取り組んでいます。コーポレートメッセージは「人生に、野遊びを。」です。
高井文寛副社長が受賞のあいさつを述べました。「『衣食住働遊』を広げてライフバリューを実現します。キャンプ道具やアパレルを超えた価値観を提供していきます。たくさんの人々のたくさんの野遊びの記憶が、自然と人の関係をあるべき姿に導いて、いつか世界をいい方へ変えていく。『衣食住働遊』のすべてに自然を感じる、スノーピークならではの体験価値創造に邁進してまいります」と、あらためて自社のミッションを明確に示していました。
◆ファッション文化特別賞 故・髙田賢三氏
ファッション文化特別賞は故・髙田賢三氏に贈られました。髙田氏と長年、仕事を共にしてきたセ・シュエットの鈴木三月代表取締役がコメントを述べました。
「2019年に80歳のパーティをパリで開催し、88歳の誕生日パーティもパリでやろうねと話していました。ホーム&ライフスタイルブランドの『K3』も立ち上げて、これからというときでした。フランスと日本をつなぐ、そんな思いでいつもいました。今日もどこかで見ているはずです」。髙田氏は1985年に第3回毎日ファッション大賞を受賞しています。
受賞者のあいさつに続いて、「CFCL」のプレゼンテーションが開催されました。ランウェイショー形式ではなく、動画でのプレゼンテーションです。
「CFCL」が強みとする3Dコンピューターニットの技術を丁寧に解説。新潟県の工場の映像を使って、ものづくりの現場を、リアル感と説得力を持って伝えていました。「原価以上のいいものを作っていきたい」と、高橋氏は語りました。
その後、スペシャルコンテンツとして「ここのがっこう」の学生2人が小泉氏と高橋氏に質問するコーナーが設けられました。大胆な質問にも、ソフトに応じる2人。デザイナーを目指したきっかけや、次世代に向けてのアドバイスなどが語られました。
興味深く映ったのは、2人が共通して「得意なことをひたすらやりまくる、続ける」という点を重視していたところです。小泉氏はラッフルで埋め尽くされたドラマティックなドレスを極め、高橋氏は3Dコンピューターニット技術を生かしたデザインを掘り下げています。
自分が信じた技法や表現を突き詰めていくことによって、圧倒的な強さが生まれ、オンリーワンの存在になるという成功法則を、2人はそれぞれのアプローチで実現しつつあります。2人が示している「ぶれない『我が道を行く』志向」は、デザイナーを目指している次世代にとっては大きなヒントになったのではないでしょうか。そして、そうした強い方向感・作家性が受賞にもつながったように感じました。
写真提供:毎日新聞社
撮影 三澤威紀
毎日ファッション大賞
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