ポップアートのスーパースターだったアンディ・ウォーホルはファッションアイコンとしても有名で、その彼が愛したブランドが「Brooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)」でした。アメリカンクラシックの伝統を受け継ぐブランドとして、日本でも広く知られています。メンズの老舗というイメージがありますが、実はウィメンズのファンも多く、ウィメンズのスーツを仕立てるパーソナルオーダーのサービスを提供しています。私も2021年にパンツスーツをあつらえてもらいました。今回はそれに続く2回目のオーダー体験をお伝えします。
前回は「ブルックス ブラザーズ」では初めてのオーダーだったので、あまりベーシックな線をはずさないように心がけました。アイテムはパンツスーツをチョイス。基本のシルエットを選び、生地もオーソドックスな「CANONICO(カノニコ)」に。ボタンはブランドを象徴する羊のモチーフ「ゴールデン フリース」と決めました。
今回は2着目ということもあり、前回よりもパーソナル感を出したいと考えました。前回の経験があるので、イメージがわきやすくなったのは2着目のいいところ。自分なりのアイデアを持ちやすくなりました。
「ブルックス ブラザーズ 表参道」を訪ねて、いよいよオーダーの相談がスタート。最初に選ぶのは、スーツのタイプです。
今回のテーマに据えたのは「普段にもたくさん着られるようなタイプ」です。着回しに向くスーツであれば、自然と出番も増えて、いっそう愛着がわきます。いろいろと比べてみた結果、ノーカラージャケットとショートスリーブワンピースという組み合わせに決めました。実はこのアイテムは今年からのニューモデル。お客様から要望が多かったそうで、オーダーの選択肢がさらに広がりました。
今年はクラシカルがトレンドになっているので、ノーカラージャケットはぴったり。襟がないから、カッチリしすぎず、自在に着こなしやすいのも、選んだ理由。単品でもたくさん使えそうだと感じました。大襟やボウタイ、タートルネックなど、いろいろな襟バリエーションと好相性のノーカラーは便利に使えるデザインです。
そして、次は素材選び。前回の記事にも書きましたが、パーソナルオーダーの醍醐味とも言えるのは、自分好みの生地を選べるところ。今回のサービスでは約600種類の織物から生地を選ぶことができます。
スワッチ(生地見本)をめくりながら、それぞれの風合いや色・柄などを比較した末、今回はハリス・ツイードのブラックウオッチ柄(ネイビーとグリーン主体のチェック柄)に決めました。この生地を選んだ理由は、流行に左右されないタイムレスな雰囲気でありながら、しっかりトレンドモチーフであるチェック柄だから。そして、グリーンもサステナビリティーを背景に勢いが続いている色。トレンドなのにタイムレスというところが私に刺さった理由です。
ツイード生地の代名詞的存在として定評のあるハリス・ツイードは信頼感の面でも申し分ありません。丈夫でありながらシワになりにくく、正統派でありつつモダン。時代に流されないクラシカルな素材なのに、今のおしゃれマインドを映すという特別な生地です。
サンプルのノーカラージャケットは写真を見ると分かる通り、シンプルな素材で仕立ててあったので、果たしてハリス・ツイードでどんな仕上がりになるか、内心ではドキドキでした。でも、担当スタッフさんが店内にあった、似ているツイード素材のノーカラージャケットを見せてくれたので、大まかなイメージをつかめました。
パーソナルオーダーのリピーターならではの、自分らしさを出したいとも考えました。ワンピースにも同じハリス・ツイードを選んだのは、そういう思いからです。せっかく生地を選べるのだから、セットアップになるよう、同じハリス・ツイードに決めました。ハリス・ツイードのブラックウオッチでそろえたセットアップはなかなか個性的なうえ、レトロ感も漂うので、趣深い雰囲気に仕上がりそうだと思えました。
次は、ボタン選び。クラシカルなハリス・ツイードにはくるみボタン(ボタン表面を共生地で覆ったタイプ)が似合うように最初は感じました。でも、今回はノーカラージャケットでボタンが1個ということなので、ワンポイントの飾りになるほうがいいと思い直して、ゴールドの羊モチーフ「ゴールデン フリース」をセレクト。アクセサリーのようにも映る存在感を狙いました。
表地のほかに、裏地も選べます。前回は背中と袖で色を変えました。今回は、フェミニンな印象の強いノーカラーなので、ワインレッド系(ペイズリー柄織り模様)をチョイス。ブラックウオッチとのコントラストが際立ち、ジャケットの裏地がチラッとめくれるたびにアイキャッチーな見え具合を意識しました。
前回は袖と背裏で、生地と色を変えましたが、今回のジャケットは袖をまくらないタイプなので、袖と背裏は統一しました。内側のパイピング(縁取りステッチ)はゴールドのボタンに合わせて、イエロー系の糸に。ワインレッドとのコントラストで華やかな印象に見えそうです。
ポケットのデザインも選べます。ウィメンズ服でのポケットはちょっとしたブームになっているので、腰ポケットにフラップ(ふた)を付けようかとも考えましたが、担当スタッフさんに相談したところ、「フェミニンな雰囲気のジャケットだから、マニッシュな感じのフラップはないほうがベター」というアドバイスをもらえたので、助言に従って、フラップなしに決定。そのおかげですっきりしたシルエットに整いました。こういうサポートを受けられるのは、オーダーならではのありがたいところです。
クラシックやレトロの雰囲気が好きなので、ジャケットの襟周りにハンドステッチを入れたかったのですが、こちらもアドバイスを受けて、考えを改め、ステッチなしに変更しました。なぜかというと、ハリス・ツイードはふっくらした風合いが持ち味なので、ステッチを入れることによって、そのふっくら感が損なわれてしまうと教えてもらったから。自分では気づかない新たな発見でした。生地の特質とステッチの効果を知るスタッフからはこのようなアドバイスももらえます。「なるほど」と納得して、ステッチはなしに決めました。
前回のジャケットにはポケットフラップを添え、ステッチも入れました。でも、今回は「ノーカラーですっきり着こなしたい」「ハリス・ツイードのよさを引き出したい」という気持ちが強かったので、フラップなしのステッチなしに決定。ちゃんとそれぞれの選択理由を自分なりに納得して、決めていけるのは、適切なサポートがあればこそ。知見の豊かなスタッフの助言は、とても心強く感じられました。
次はサイズを選んでいきます。このプロセスが最も時間を要したところです。「オーダーなのだから、採寸すれば、その通りで済むのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。でも、サイズに注文を出せるのも、オーダーの魅力なのです。具体的に説明していきましょう。
前回のパンツスーツは初めてという事情もあり、基本サイズのままだったので、サイズ選びはあっという間に済みました。ただ、今回は2着目。パーソナル感を強めたくて、いろいろと注文を加えました。
まず、ジャケットは普段使いもしたいので、オーバーサイズにしたいと考えました。メンズのアウターやジャケットをバサッと着るのが近ごろの私の好みだからです。デイリーに着る場合、堅苦しく見えにくいよう、ゆったりしたシルエットのほうがよいとも考えました。
その希望を伝えたところ、サイズ「8」を提案してもらえました。サンプルを着用してみたところ、少しゆとりのあるシルエットが素敵で気に入りました。ジャストサイズの「2」と比べたうえで、身頃の幅はゆったりめがいいと感じ、「8」を選びました。こういった具合にジャケットのサイズ感を自分好みにアレンジできると、セットアップでの着回しバリエーションがぐんと広がります。2着目以降に試したいオーダー技です。
私の場合、オーバーサイズでバサッと羽織るようなメンズジャケットに慣れているので、サイズ「8」でも違和感がないのですが、初めての場合はスタッフさんとよく相談してみてください。私が担当スタッフさんからもらったアドバイスは着丈に関してです。「サイズが8の場合、着丈が長く感じるので、裾を少し詰めてもいいかもしれません」と助言してもらえました。
着丈が長いままだと、腰の位置が低く見える結果、重心が低くなり、少し野暮ったい雰囲気になる心配があるそうです。見た目のめりはりを加えるには、ジャケットの裾を詰めて、重心を高めに引き上げるのが効果的だとのこと。この指摘も自分では気がつかなかったところで、「なるほど!」と納得。ウエスト位置を高くして、全体をすっきり見せるためにも重要なポイントです。アドバイスに迷わず従い、着丈を2センチ短く詰めてもらうことにしました。
ジャケットが決着したので、次はワンピースの番です。ワンピースのほうもボディコンシャスなピッタリめで着るよりは、いくらかゆとりを持たせて着たいと希望を伝えました。私の要望に添って最初に用意してもらったのは、「4」のサイズ。着たところ、ウエスト周りはゆとりがあっていいのですが、バスト周りや、肩、腕周りが少しゆるくて、見た目も幼い印象に。もっと小さいサイズを出してもらいました。
次にサイズ「2」を着たら、今度はジャストサイズでかっこいいのですが、もうちょっとラフに着たり、レイヤードでも着こなしたりしたいと感じました。そうした着方を考えると、ちょっとだけ余裕が足りない感じ。そこで、再びスタッフさんに相談。「サイズを上げるのではなく、サイズ『2』のまま、ウエスト周りを3センチ出しましょう。そして、スカート丈を8センチ長くしては」というアドバイスをもらいました。
これも自分では思い浮かばないアイデアでした。そもそも基本形のフォルムに、そんなサイズ変更が部分ごとに可能だとは知りませんでした。気になるスポットだけを調節できるから、ベースのシルエットを崩さずに済みます。ご提案をありがたく頂戴して、部分的なサイズ変更を加えることに決めました。
以上でオーダーの手順は終了。後は出来上がりを待つだけです。オーダーから出来上がりまでの約1カ月間は、仕上がりを思い浮かべて楽しみに過ごしました。待つ間のワクワク気分もオーダーした人だけの特権的なよろこびです。
「出来上がりました」という知らせが届いたので、表参道へ受け取りに向かいました。ほぼ基本形のままだった前回とは違って、今回はかなりのカスタマイズを加えているので、少しの不安とたくさんの期待が入り交じった気持ちで担当スタッフさんのもとへ。いよいよ完成品とのご対面です。
仕上がったスーツを見て、最初に浮かんだ感想は「期待以上」。全体の雰囲気はクラシカルでありつつ、オリジナルなムードも備わっていました。「ヴィンテージフェミニンミックス」をイメージしながら生地やパーツを選んでいったのがよかったのかもしれません。思い描いていた以上の出来映えにうれしくなりました。
とりわけ色味の深いブラックウオッチのクラス感と、ハリス・ツイードが醸し出す上質さがこのセットアップに特別なたたずまいをもたらしています。ノーカラージャケットにワンピースという、やや意外感のあるマリアージュも、ミックスコーディネート好きな私らしい出来。全部が気に入りました。
「こびない自然体フェミニン」がロングトレンドになる中、今っぽさをしっかり生かしたテイストに仕上がりました。オーダーアイテムならではのリッチな手仕事感や、「ブルックス ブラザーズ」らしい凛としたムードなども、満足度が高い理由。ジャケット裏にあしらわれたハリス・ツイードのパッチも小粋です。
早速、私物の刺繍ワンピースの上からジャケットを羽織ってみました。モチーフ同士が互いを引き立て合うような「柄on柄」のコーディネートが一発で決まり、自分流に着こなすよろこびを実感。落ち着いた雰囲気のブラックウオッチは、こんな花柄刺繍にもよく似合います。
今度はワンピースを1枚で着てみたら、「大人かわいい」といったムードで、こちらも満足。左右にちゃんとポケットもついています。胸周り、肩・腕周りはすっきりしているのに、ウエスト周りには少しゆとりがあって、リラックスして着られると感じました。サイズ直しで期待した通りの仕上がりです。さらに、スカート丈も長くなってモード感もアップ。椅子に座ったときも膝がしっかり隠れます。
着丈が長くなっても、もともとのパターンがきれいなおかげで、ウエスト位置が高く見えて、結果的に脚も長く映っています。私物のハイネックトップスに重ねて着ても、窮屈に感じません。やはり細かくサイズを直してもらって正解でした。
ワンピースの上から、ジャケットを肩掛けしてみると、動いたときにジャケットの裏地が見えて、華やぎが加わります。ジャケットに少し余裕を持たせてあるから、肩掛けもしっかり決まります。さらにVネックのラインがすっきり細見え効果を発揮してくれています。ゆとりがあるのにだぼついた感じではなく、ほどよいシェイプフォルムがクチュール感を引き出しています。見るからに「いいジャケットを着ているな」という感じです。
ジャケットとのセットアップで着れば、きちんと感が備わった格上ルックに。ゴールドのワンボタンがほのかなリッチ感を漂わせます。ジャケットのポケットからフラップを省いたおかげで、ノーカラーと相まってすっきりした見え具合に。ステッチなしにしたから、ノーカラー部分のふくらみが保たれ、穏やかな表情を帯びました。これもアドバイスの賜物です。
店内に並べられたワイドデニムやパンツなどとも組み合わせてみました。トレンドのビクトリアン襟ブラウスにもノーカラージャケットがマッチします。Vラインがシャープに見せてくれるので、ワイドパンツやフレア、プリーツスカートなど、ボリュームのあるボトムスとも好相性を発揮。手持ちワードローブとの組み合わせが楽しめそうです。
ブランドアンバサダーの大平洋一さんからも「とてもいい仕上がりですね」とお墨付きをもらえました。ワンピースとジャケットのサイズが全く違う(「8」と「2」)ことや、ブラックウオッチを選んだことなどを話すと、パーソナルオーダーをもっと気軽に楽しんでほしいから、そういった自分流のオーダーはすごくうれしいし、どんどん広がってほしいとおっしゃってくれました。ブラックウオッチはもともと正統派の軍服に由来していると教えてもらえたうえ、「仕事もディナーもOK」と聞いて、今回のセットアップは様々なシーンに使えると確信できました。
私の様々なこだわりやわがままにも丁寧に向き合って、目から鱗のアドバイスを下さった担当スタッフさんには感謝の気持ちでいっぱいです。スタッフとの対話を重ねて、一緒に作り上げていくから、パーソナルオーダーは思い出深い体験になります。袖を通すたびに、オーダー当日の記憶がよみがえり、愛着もひとしお。前回オーダー分と合わせて、「自慢の2着」となりました。
今回のオーダー内容を簡単にまとめると、以下のような感じになります。
◆ノーカラージャケット
サイズ8 裾2センチ詰め ステッチなし、フラップなし、総裏・ワインレッド系(ペイズリー柄織り模様)、ゴールドの羊モチーフ「ゴールデン フリース」
◆ショートスリーブワンピース
サイズ2 身頃3センチ出し 着丈8センチ出し
担当スタッフさんから教わった、オーダーするときのポイントは以下の通りです。
◆普段使っているおしゃれグッズ、お気に入りのアクセサリーなどを持参する。バッグ、シューズなどは身につけていくか、持っていく。そういった愛用品を見ると、スタッフさんもそれらに沿ってアドバイスしやすい。
◆どんなシーンで主に着たいかを伝える。仕事用なのか、お出かけ用なのかなど。
◆元気なときに来店する。ご飯を食べた後やご機嫌なときに。「これでいいや」という感じでオーダーしてしまわないよう、疲れているときは行かない。オーダー後での体重や体型の変化はフィット具合に関わります。
◆自分が普段着ている服の話や、着ていくシーンの話などはアドバイスする側イメージしやすくなる。私の場合は、ファッション関係の仕事なので、あまりカッチリし過ぎないサイズ感で、いろいろな服とミックスコーデを楽しみたいということを伝えました。
カスタマイズやリメイクと同じような感覚で、「自分だけの1着」を作り出せるパーソナルオーダー。「ブルックス ブラザーズ」の場合、プロのサポートを受けられる点で別格です。パーソナルスタイリストのように頼もしい存在で、しかもスタイリスト代はかかりません。服のスタイリングアドバイスだけでなく、サイズや生地・パーツ選びも含めて、しっかり手助けしてもらえます。
じっくり相談しながらのオーダー体験は、自分流のファッションをとらえ直すきっかけにもなりました。自分の好みや体型をじっくり考える機会はなかなかないので、とてもいい機会でした。プライスもこれだけ細かく希望を聞いてもらえるパーソナルオーダーという形でありながら、ジャケットが8万円台~、パンツが5万円台~、スカートが4万円台~、ワンピースが7万円台~という設定は、納得感が高いように思いました。
後日、私物をミックスしてスタイリングしてみました。ボウタイブラウスの上からワンピースを着て、白のロングブーツを履き、遊び心のある着こなしに。ジャケットを脱いで手に持ったときも裏地のワインカラーが見えて、様になります。ウエスト位置が高く見えて、スタイルアップの効果も。きちん感とモードが程よく交じり合うミックスコーデに仕上がりました。
オーダーの魅力はいくつも挙げられますが、私が今回、強く感じたのは、「ワードローブを育てる」という、特別なお気に入り服との付き合い方が始まった点です。1着だけだった頃と比べて、2着がハンガーで並んでいる今は、ラインアップの「柱」ができたような感じ。手持ち服との組み合わせ方を考えるのも楽しい時間です。そして、「次の3着目はどうしよう」と、早くもアイデアが膨らみ始めています。自分のワードローブを育てるというのは、こういうよろこびなのでしょう。
「ブルックス ブラザーズ」の場合、ストア側にオーダーシートを保管してもらえるので、2着目以降はそれを見ながら相談して、バリエーションを広げていけます。ワードローブの「要」だから、大切に長く着続けたいという気持ちが生まれるのも、サステナブルなおしゃれと言えそう。「ブルックス ブラザーズ」のオーダーコーナーで過ごした素敵な時間は、私のファッションヒストリーの大事なピースになりました。
今回の私の体験記がみなさんのパーソナルオーダーのお役に少しでも立てたら幸せです。
パーソナルオーダーWomen オンラインカタログ
http://catalog.brooksbrothers.co.jp/brooksbrothers/personalorder-women/
Brooks Brothers
https://www.brooksbrothers.co.jp/
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