先日のブログでも書きましたが、「フィナンシャル・タイムズ」主催の「FT Business of Luxury Summit 2008」が開催されたので、行って来ました。(出席したのは、29日の午前の部です)
LVMHのマネージングディレクターのToni Belloni氏のお話から始まりました。今後の戦略を語る中で出た、「このビジネスはサーフィンと同じである」というくだりが印象的でした。サーフィンに適した大波(ビッグウェーブ)に乗るのと同じように、タイミングをうまく使うことや、バランスが大事だという例えです。
その後は、ボッテガ・ヴェネタ社長、アクアスキュータム社長、ノキアの超高級携帯ブランド「Vertu」社長が登壇。それぞれに異なるブランド戦略を披露してくれました。
コンデナスト・パブリケーションズ・ジャパン社長で「VOGUE NIPPON」編集長の斎藤和弘氏と、伊勢丹の武藤信一社長のディスカッションを聞くことができました。ファッションビジネスに最も通じたお2人だけに、中身の濃いお話でした。
テーマは「日本の消費者は何を望んでいるか」。高級ブランド品の売り上げが横ばい状況にある中、日本の消費者たちは新たな購買動向について何を決め手としているのか。こういった状況下で最も有効なコミュニケーション戦略は何か?などでした。
■ボッテガ・ヴェネタ社長 Patrizio di Maro氏のお話
1960~70年代のボッテガ・ヴェネタはエレガントで洗練され、映画「アメリカンジゴロ」にも取り上げられていたブランドだった。でも、7年前の2001年は、ロゴがそこら中に氾濫し、エレガンスとは対極のげんなりするような商品になってしまいました。
日本では55カ所以上で販売され、そこら中の平場で積み上げられていました。かつての高級ブランドの面影はなく、会社の財政そのものも傾いてしまいました。
でも、この7年の間に事情は大きく変わりました。ボッテガ・ヴェネタはエレガンスでラグジュアリーなブランドとしての評価を取り戻したのです。その決め手は、ロゴをなくし、スローガンを「あなたのイニシャルで充分です」にした事。バッグや服はあくまでアクセサリーであり、個人を際立たせるツールにすぎず、あくまでも個人が重要だということを意味します。
最高の職人による完全な手作業で作ります。50~100個ほどしか作らない限定モデルにし、エレガンスとラグジュアリーを商品に詰めこんでいます。
革製品だけでなく、ライフスタイル全体のブランドに発展してきました。デザイナーのトーマス・マイヤーが就任して、さらに進化しました。
このような取り組みが日本でも受け入れられました。ここ数年、日本では自分らしさを出したいという人が増えています。日本人は本当にいい物、必要な物を選ぶようになりました。
成熟した厳しい目を持ち、知識を持つ日本人に認められた。そこに、今のボッテガの成功があるのです。
日本の消費者は情報量が豊富で、細かい見識を持った人が多い。大変厳しいマーケットである日本で成功すれば、他国でも必ず成功するはずです。そういった点でも日本がラグジュアリー市場において、最終的なモデルになると言えるでしょう。
■伊勢丹の武藤社長のお話
伊勢丹では昔は、ハイエンドのブティックを作り、その中でお客様とのコミュケーションを重ねてきました。しかし、今の伊勢丹1階のバッグやシューズ売り場からもわかるように、ハイエンド・ブランドの垣根をなくし、平場の中で展開しています。
すべてのブランドを一緒にミックスして並べても、いい物はきちんと売れていく。それは、消費者が厳しい目を持っていて、知識もあるからなのです。
1990年代前半の厳しい日本経済の中、おかしな現象が起きました。当時の20代の人たちが先頭に立ってハイエンドブランドを消費していたのです。
しかし、今の20代はまったく逆。昨年の11月頃から景気が厳しくなっている中、最初に反応したのが20代だったそうです。20代が最も早く買い物をセーブしました。20年間で20代の消費感覚がガラリと変わったのです。
何かを積極的に取り入れるより、保守的なのです。生まれた時からモノにあふれた中で育ってきた人たちだからでしょう。
若い人向け、大人向けなどの年齢や世代で線引きするのではなく、これからは家族構成で考えることも大切です。20代でもハイエンドブランドを母親や祖母の世代から買ってもらう場合もある。だから、単に年齢別でターゲットを絞ってはいけないのです。
(男女間の消費者像の違いに関する質問に対して)もちろん女性の方が大きいでしょう。だが、伊勢丹メンズ館からもわかるように、男性マーケットが広がってきた。メンズ館のフレグランスマーケットは女性に比べシェアが大きい。男の人が女性とコミュニケーションを取る際、男臭い嫌な匂いを理由に最初から拒絶されるのを避けるために使うことが多いようです。
ラグジュアリーブランドがこれだけ厳しい中、なぜ日本では売れているのか。それは単にブランド力ではなく、本当にいい物が売れているという事。日本人は昔から「職人」という職業を理解して、高い尊敬の目を向けてきたので、本当にいい物に関して目利きがあります。フェラガモが長い間、コンスタントに売れ続けてる理由もここにあるわけです。
■「VOGUE NIPPON」の斎藤編集長のお話
1990年代の20代女性は、何でも知りたいと考え、いろいろな事にチャレンジしていました。ブランドに関してもロゴマニアというよりは、ヘビーロイヤルカスタマーという感じでした。
そのころの女性たちは40歳になりました。ブランドを知り尽くし、本当によい物、パーソナルな物を求めています。その結果、そういったブランドが支持されるようになりました。
ところが、今のアラウンド25歳は生まれたときからブランドに囲まれているので、考え方が違います。ロゴ物はあり得ない。ブランドの価値も自分にとって大切かをきちんと考えます。
(男女間の消費者像の違いに関する質問に対して)圧倒的にラグジュアリーブランドは女性に支持されています。もちろん、男性も徐々に増え始めています。
女性は職業は選べても企業を選べない時代がありました。でも、男女雇用機会均等法ができて、女性も企業が選びやすくなりました。「自由」を手に入れたのです。
そうなると、人生の選択技が増えてくるので、日本の女性はジャッジをするようになりました。高校を卒業した後、大学に行くか、行かないか。就職するか、しないか。結婚するか、しないか。子供を産むか、産まないか。すべて自分でジャッジするわけです。
男性は高校を出て、大学に行って、就職して、結婚してという「ルール」がある中、女性はジャッジをしないと、成功していかないのです。
要するに消費はジャッジなのです。買うか買わないか、好きか嫌いか。自分で決める。だから、商品をよく見るのです。
ラグジュアリーブランドビジネスについての斎藤編集長のお話もご参考に。
FT Business of Luxury Summit 2008
http://www.ftbusinessofluxury.com/home.asp