英国のファッションデザイナーで、「パンクの女王」の異名でも知られるヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)氏の長編ドキュメンタリー映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』を試写会で見てきました。日本での劇場公開は2018年12月28日からの予定です。
映画の内容は英語タイトルの『Westwood: Punk, Icon, Activist』が端的に示しています。ヴィヴィアンが持ついくつもの「顔」のうち、「Punk=デザイナー」、「Icon=シンボル」、そして「Activist=活動家」という3つのプロフィールを交差させながら、彼女の人生とキャリアに迫っていきます。
ファッションウイークでの発表に向けて、コレクション制作に打ち込む、近年のヴィヴィアンと、インタビューに答えて過去を語るヴィヴィアン、さらに昔の資料映像、関係者のコメントなどが立体的に組み合わせられた構成が、彼女の過去と現在を行き来するような感覚を呼び起こします。クリエイターとしての年齢的限界を漏らす場面もあり、彼女の実像に迫っていると言えそうです。
1941年生まれで77歳のヴィヴィアンは、その実年齢がとても信じられないほど、元気でパワフル。気に入らない飾りをドレスに付けたスタッフを厳しくとがめるシーンは、衰えない創作意欲とプライドを感じさせました。
夫だったマルコム・マクラーレンとの確執に関して明かされたのも、この映画で指折りの見どころでしょう。彼の心ない仕打ちも打ち明けています。「パンクの女王」と言われ続けてきましたが、セックス・ピストルズについて尋ねられると、「悲しいことを思い出させないで」という理由から、拒否する場面もあり、パンクロックに関する複雑な思いもにじませます。
一時期、経営危機に陥ったヴィヴィアンに、ある大物デザイナーが支援の手を差し伸べたという、知られざるエピソードも関係者の証言で語られています。生活保護をもらうところまで追い込まれた窮状も、ヴィヴィアン本人の口から明かされていて、驚きの連続です。アバンギャルドなデザインを、保守的な英国で受け入れてもらえず、屈辱的な扱いを受けた当時の映像は衝撃的な意地の悪さ。成功に至る道のりが決して平坦ではなかったことが実感できます。
商業的に成功をつかんだヴィヴィアンが次に力を入れたのは、地球温暖化をはじめとする環境問題への取り組みでした。実際に北極へ向かった彼女の映像も盛り込まれています。
今では多くのファッションブランドが環境問題を重視するようになっていますが、ヴィヴィアンの態度は戦闘的ですらあり、いわゆる「意識高い系」とは志の太さが違います。その挑発的とも映るアクティビストぶりは、まるでかつてのパンクや、彼女自身の出身でもある労働者階級が宿していた、社会への怒りを再び燃え上がらせているかのようです。
「接続可能なやり方で訴えるしかない。この考えも発言も今までで一番意義があるわ。大事なのは地球に何が起きているかを知り、自分の視点を持つ事です」。ヴィヴィアンはこう語っています。
・映像(シェールガス採掘反対デモ編)/You Tube
https://youtu.be/dA6_KbYbx3U
25歳年下のパートナーであるアンドレアス・クロンターラーとの関係も真正面から語られています。とりわけ意義深く映るのは、アンドレアスがクリエーションにどうかかわっているかを明らかにしているところでしょう。ビッグメゾンの場合、デザイナー本人がどれぐらい自らデッサンを描き、試作品を作り込んでいるかは、なかなか知ることができません。
今回の映画ではヴィヴィアン本人が今なお細部にまで指示を出していることに加え、アンドレアスが制作の真ん中で主導的な仕事をこなしていることが分かります。「最初はうさんくさい奴だと思っていた」という、ヴィヴィアンの息子の証言がある通り、彼女の「おまけ」「付き人」風にも見られていたアンドレアスが十分な才能を備えているうえ、ヴィヴィアンを本当に敬愛している様子が映像から伝わってきます。
映画では、みんなが知りたかった事柄にしっかり答えています。全体を貫く「いさぎよさ」「さばさば感」のようなものは、ヴィヴィアン本人の気骨に通じていると見えます。
労働者階級から貴族扱い(デイム)にのぼり詰めて、2度の離婚を重ねつつ、2人の息子を育て上げています。50歳を超えてから、3度目の結婚を決断。今なお「中国語を学びたい」と語り、地球温暖化への反対運動では先頭に立つ彼女の姿は、ファッション関係者にとどまらず、すべての女性に魂のロールモデルを示してくれるかのようです。
『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
2018年12月28日(金)より 角川シネマ有楽町、新宿バルト9他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
公式HP: http://westwood-movie.jp
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