英国王室のキャサリン妃とメーガン妃の両方から愛されるブランドが英国の「ALEXANDER McQUEEN(アレキサンダー・マックイーン)」。キャサリン妃のウエディングドレスを手がけたサラ・バートン氏は「アレキサンダー・マックイーン」の現クリエイティブディレクター。サラが後を継いだ格好の創業デザイナー、故アレキサンダー・マックイーン(1969~2010年)の生涯を振り返ったドキュメンタリー映画が『マックイーン:モードの反逆児』。日本での劇場公開は2019年4月5日からの予定です。
「天才」という褒め言葉は軽々しく使われがちですが、マックイーンはその表現にふさわしい、特別な才能を見せつけたデザイナーでした。確かなテーラリングの技術、常識にとらわれない発想、時に挑発的なエッジの立て方。それらが強引にねじり合わされたようなクリエーションは野性味を帯びてスリリングでありつつ、魂をとろけさせるような美学を宿していました。没後の2011年にメトロポリタン美術館で開催された回顧展のタイトル「Savage Beauty(=野蛮な美)」は、彼の特質を見事に表現しています。
回顧展が主に彼の作品にフォーカスしたのに対して、今回のドキュメンタリー映画は彼の人生をクローズアップした形です。衝撃的な自死に至るまでの内面史を時系列に沿って丁寧につづっています。
生き急いだ感じすらある彼の41年間を、生い立ちや家族・友人関係、ビジネス、そして創作といった角度から見詰め直す構成で、いまだに謎とされる死の背景にも迫りました。
労働者階級の出身という事実は生前からよく知られていましたが、実際の家庭環境や、そこからマックイーンが反骨のマインドを得た様子がホームビデオや本人インタビューの映像から伝わってきます。クリエーションの独創性から、「一匹狼」的なイメージを抱かれるところもありましたが、母、姉の言葉からは深い家族愛がうかがえ、チームの仲間とも親密だったことが分かります。
とりわけ、パリの老舗ブランド「Givenchy(ジバンシィ)」に迎えられた当初からの仲間は彼の人柄を示す、貴重なインタビューを提供してくれています。マックイーンを早くから評価したイザベラ・ブロウの夫の証言も当時を知る重要な手がかり。しかし、成功の階段を駆け上がるにつれて、仲間が離れていったり、イザベラとも疎遠になったりと、マックイーンは孤独の度合いを深めていきます。
ビッグメゾンを任されてからのマックイーンは1年間に14回ものコレクション制作に追われる毎日が続き、徐々に余裕を失っていくようでした。成功したクリエイターにありがちな傲慢さやわがままも見え始めます。
それでも、デザイナーとの同席や意見交換が許されていなかった、現場の職人たちに敬意を払い、自ら進んで職人・縫製技術者と一緒に食事をとるような態度には、サヴィル・ロウの仕立て職人からスタートしたマックイーンらしい「反階級」への思いが感じられました。
デザイナーを追い込んでしまいがちな、過密スケジュールやビジネス的プレッシャーなどの多くの問題は今も続いています。中でも、創造者特有の「孤独」はこの作品の重要なテーマに据えられているように感じます。
私がニューヨーク・ファッションウイークで現地にいた2010年2月11日、訃報に接した際の気持ちは今でも忘れられません。ファッション業界にも大きな衝撃が走りました。今日は彼の命日です。あまりにも早すぎた彼の旅立ちが今なお惜しまれます。
強烈な個性を持つクリエイターの人生ドラマとしても成り立っている本作は、ファッション業界人以外にも訴えかける内容になっています。本作は英国アカデミー賞では英国作品賞とドキュメンタリー賞の両部門でノミネートされました。日本でも2019年4月の公開に向けて、幅広い関心を集めると期待されます。
監督:イアン・ボノート『エッジ・オブ・スピード』、ピーター・エテッドギー『オネーギンの恋文』(脚本)
音楽:マイケル・ナイマン『 ピアノ・レッスン』『ことの終わり』
出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォードほか
配給:キノフィルムズ
© Salon Galahad Ltd 2018
『マックイーン:モードの反逆児』
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