原子力発電所事故を背景に、主人公の消防士をはじめとする関係者の苦難を描いたロシア映画『チェルノブイリ1986』が公開されます(2022年5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー)。ウクライナ出身のプロデューサー、アレクサンドル・ロドニャンスキー氏は1986年の事故当時、実際に現地で事故を目撃していたそうです。
消防士アレクセイ役で主演したダニーラ・コズロフスキー氏が監督も兼ねています。元恋人のオリガ(オクサナ・アキンシナ)とやり直そうと決めたばかりだったアレクセイでしたが、地元の原発で前代未聞の大規模事故が起こり、この上なく危険な消火現場に駆り出されてしまいます。
1986年当時、事故が起きる前は平和な街でした。オリガの装いも美容師ならではのおしゃれ感があり、快活で華やかなムード。きれいな色のブルゾンにプリーツスカート、大ぶりイヤリングという彼女のファッションは等身大の幸せを感じさせました。その平和な日常ムードが後半の重たさを際立たせています。
呼び込まれたアレクセイが事故対策本部の会議で知らされたのは、水蒸気爆発が起これば、放射性物質がヨーロッパ全土を汚染しかねないという究極のリスク。爆発を止め、市民を救うには、タンクの排出弁を手作業で開くしかないのですが、重度の被曝は避けられず、命の保証はありません。そんな死と背中合わせの任務に志願するアレクセイ。しかし、崩壊寸前の原発で彼を待ち受けていたのは、予想を上回る危険とトラブルでした。
巨額の費用を投じて、当時の事故現場の様子を再現しています。ロケには別の実在する原発が使われたそうです。当時は報道が難しく、リアルな映像を目にしにくかった状況があっただけに、あらためて事故の大きさを感じ取れるスペクタクル映像です。
ウクライナへのロシア侵攻で一時、ロシア軍に制圧されたことで、チョルノービリ(旧称はチェルノブイリ)原発は再び注目を浴びました。今回の原発占拠ではロシア側の危機意識の甘さが批判を受けましたが、この映画を見ると、当時の政府関係者たちも事態をつかみきれていなかった様子がうかがえます。
ロシア政府や原子力関連企業の協力を受けて製作されただけに、原発の管理運営や事故後の初期対応に対する問題提起は控えめです。原因究明や責任追及には至っておらず、英雄的な消防士をたたえる感動作になっているところがあります。
ただ、このような原発事故を繰り返してはならないという教訓を再確認するうえでは意味のある内容です。現場や周辺地域の個人が犠牲になるという構図は今も変わりがなく、そのあたりにも制作者たちの静かな批判が込められていると言えるでしょう。
「ヨーロッパ崩壊」が一時的にでも現実味を帯びていたことを考えると、背筋が寒くなる思いがします。同時に、大きな状況は当時と変わっていないことを思えば、ウクライナ侵攻が続く今、平和の大切さをあらためて考えるきっかけになりそうな映画です。
『チェルノブイリ1986』
製作・監督・主演:ダニーラ・コズロフスキー『ハードコア』
製作:アレクサンドル・ロドニャンスキー『殺人狂騒曲 第9の生贄』
出演:オクサナ・アキンシナ『ミッション・イン・モスクワ』、フィリップ・アヴデエフ『LETO-レト-』
2020年/ロシア/ロシア語/135分/シネスコ/5.1ch
字幕翻訳:平井かおり/字幕監修:市谷恵子/配給:ツイン G
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chernobyl1986-movie.com
5/6(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー