『グランド・ブダペスト・ホテル』や『フレンチ・ディスパッチ』がヒットし、日本でもファンの多いウェス・アンダーソン監督の新作映画『アステロイド・シティ』が2023年9月1日(金)から、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほかで全国公開されます。今回は1950年代のアメリカが舞台だけに、当時のファッションも見どころとなっています。
アンダーソン監督の作品に共通するのは、独特の色調です。どこか懐かしい雰囲気の漂う、レトロでノスタルジックなカラートーンは物語世界にほのぼのとしたヒューマン感を帯びさせます。今回もこの「アンダーソン色」は健在。フィフティーズ(50年代)のムードをいっそう濃く印象付ける効果を発揮しました。
ファッションの面でも魅力の多い映画です。クラシカルやレトロはモードの世界で大きなトレンドになっています。目先の流行にとらわれない「タイムレス」の傾向も強まっています。古着・ヴィンテージのブームが定着してきたので、50年代ルックがたくさん登場するこの映画はスタイリングのお手本としても見る価値があるでしょう。
たとえば、スリーブレスの花柄ワンピース。襟元のボタンをきっちり全部留めるシャツ姿の男性。パナマハット風とのテンガロン風ともつかない帽子。ジャケットの着丈が長めのスーツ。デニムの上下。ブルーカラーのシャツ。作業着ライクなシャツジャケット。砂漠の田舎街という舞台設定にふさわしく、やや野暮ったい印象の装い、ほのかに垢抜けない風情がかえって今となってはおしゃれな見え具合に。
人口わずか90人足らずの、砂漠の街「アステロイド・シティ」で開かれたジュニア宇宙科学賞がきっかけ。アメリカ各地から集められた科学に強い5人の天才的な子どもたちとその保護者。しかし、宇宙人が現れたという騒ぎが起きて、街は封鎖されてしまう──。
マリリン・モンローを思わせる、グラマラスな映画スター、ミッジ(スカーレット・ヨハンソン)をはじめ、登場人物はいずれも個性的なキャラクターぞろい。軍人や天文学者、教師など、立場の異なる人たちも大勢、描き込まれています。だから、着こなしのほうも癖が強め。人柄や立場、経歴が各自のファッションに味わい深く写し込まれています。
人間と宇宙人の接近遭遇というテーマは、過去にも『未知との遭遇』や『E.T.』など、いろいろな映画で題材になってきました。多くの映画ではSF的なテイストがベースに。でも、『アステロイド・シティ』はSFっぽさが薄く、もっと人間味の濃い「人々の物語」に仕上げられています。
ウェス映画に共通する、人間へのあたたかいまなざしがこの映画でも変わりません。ほのぼの感と切なさが入り交じるようなエモーションのざわめきもウェス流。今ほどには物質文明が進んでいなかった50年代の空気感も心地よく感じられる映画です。
『アステロイド・シティ』
2023年9月1日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国にて公開
https://asteroidcity-movie.com/
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