映画『ウェルカム トゥ ダリ』、公開 サルバドール・ダリが過ごした「喧噪の1970年代」を活写 70年代NYファッションも

映画『ウェルカム トゥ ダリ』、公開 

ファッションの世界ではシュルレアリスム(超現実主義)の長いブームが続いています。幻想的な構図や奇想のモチーフが装いにアート感をまとわせてきました。ルネ・マグリットやマルク・シャガール、ジョアン・ミロなどが知られていますが、代名詞的な存在と言えるのは、やはり極端に跳ね上げたひげで知られるサルバドール・ダリ(Salvador Dali)でしょう。映画『ウェルカム トゥ ダリ』は彼の1970年代を通して画業と人物像に迫りました。

芸術家には常識外れのエピソードが珍しくないものですが、ダリほどエキセントリックな逸話の多かったアーティストはほとんどいないでしょう。友人の妻を奪う格好で結婚した最愛のパートナー、ガラ夫人と離婚して、再び結婚したのも「ダリ伝説」のほんの一片です。

スプーンを持ったまま眠り、スプーンが床に落ちた音で目覚めて、それまで見ていた夢を描くのは、無意識を作品に写し込むためにダリが考案した技法でした。潜水服で人前に現れるといった奇行もしばしば。カラフルなキャンディー菓子「チュッパチャプス」のロゴはダリのデザインです。

84歳まで生きたダリですが、生地フィゲラス(スペイン)にダリ劇場美術館を開館し、パリのポンピドゥー・センターで回顧展が開かれた1970年代は絶頂期と言える時期です。映画は74年のニューヨーク市を舞台に、ダリの破天荒で刺激的な日々を描き出します。ダリ役は『ガンジー』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたベン・キングズレーが演じました。妻のガラ役は『ローザ・ルクセンブルグ』でカンヌ国際映画祭女優賞のバルバラ・スコヴァです。

映画『ウェルカム トゥ ダリ』、公開 

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当時のNYはポップアートの時代。少し前の世代にあたるダリでしたが、エキサイティングで危うい空気はむしろダリの得意とするところ。パーティーに明け暮れる中、派手好きで浪費家のガラを喜ばせるために作品を仕上げるような日々を送り、猥雑で刺激的なポップカルチャーの時代を「ダリ流」に泳いでいきます。映画ではダリをサポートする青年・ジェームスの目を通して、全体を構成。少し引いた位置からダリの生き様を写し取っています。

尊大な言葉や数々の奇行から、本来の実力や価値が割り引かれてみえがちなダリ。主な作品がそろった本格的な展覧会がなかなか開かれないのですが、フィゲラスの美術館では独創性や表現力をあらためて感じ取れます。

妻のガラに関しては、ダリを金もうけの道具扱いしたといった悪評があり、映画でもダリにきつい言葉を吐く場面がありますが、2人は特別な絆で結ばれていたようです。実際、ガラの没後しばらくして、ダリは創作をやめてしまいました。ガラを聖母として描いた作品からは慈愛のまなざしが感じられます。生涯のミューズだったガラは、ダリの才能を引き出す存在でもあったとみえます。映画では2人の不思議な関係性も描かれています。

ポップカルチャー全盛期を迎えた70年代のニューヨークでのきらびやかでグラマラスなクラブやパーティシーンでのファッションにも注目です。

シュルレアリスムやミューズ、才能、アートビジネス、そして夫婦愛など、様々なテーマを複合的にとらえたこの映画からは、常に自らを追い込まざるを得ないクリエイターの難しさが透けて映ります。誤解されやすいダリの実像に触れるうえでも理解を助けてもらえる作品です。

 

映画『ウェルカム トゥ ダリ』は2023年9月1日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開

配給:キノフィルムズ

(c) 2022 SIR REEL LIMITED

https://dali-movie.jp/

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