新型コロナウイルスの影響が世界に広がる中、GIORGIO ARMANI(ジョルジオ・アルマーニ)氏は『Vanity Fair(ヴァニティ・フェア)』誌の特別号の中でイタリア、ミラノに向けて、前向きなメッセージを発信しました。国民的デザイナーとして、そして何より、ミラノを心から愛する一市民として、「歩みを止めることも強さの表現である」「しかし未来は明るいものだ」というメッセージを伝えています。
この特集号では、イタリア人のファッションデザイナーや、著名人64人がコロナウイルスで困難な時を迎えている“ミラノ”に対して応援メッセージを送っています。”Io Solo Milano(私はミラノ)“というタイトルがつけられ、ミラノを中心にロンバルディア地区のニューススタンドで無料配布されています。
アルマーニ氏が発表したコメントは次の通りです。「私とミラノとの出会いは、少年の日にまでさかのぼります。そこにある揺るがぬ伝統と、進歩を止めない一貫した思想。私の家族と少年の日の私は、たちまちこの街に魅了されました。1970年代を通して私はミラノで暮らし、そしてここで、何物をも恐れぬ強い心が私の中に育ちました。最初の仕事場は、コルソ・ヴェネツィア通りにありました。そこの一階、二部屋から成る自分の工房で仕事をしていると、表の通りを行きかう多くの人々の足音が聞こえました。私はその音を聞きながら、いくつものデザインを黙々と描き上げていきました。社会全体に抜本的な革新をもたらす新たな服を創り出したい。その強い思いが私の中にありました。
私はミラノを選びました。ただ単なる生活の場としてではなく、私の人生を賭ける場所として。その街の持つエネルギー。新しい朝が来るごとに、「この街の使命は、新たなソリューションを生み出していくことだ」という揺るぎない確信が、街全体を満たしてゆきます。そしてこの精神をもって、困難な時代にも、歴史上の悲劇の渦中にあっても、ミラノの街はいつも必ずそれに対応し、乗り越えてきたのです。破壊の後の復興においては、街にあふれる活力と才能が、実用性と知性の両面を発揮し、変化を遂げゆく国家のニーズに応えてきました。
ですから今回の災禍においても、この街はいまそこにある時代の兆候を読み解きながら、それを「ミラノ流に解決していく」に違いありません。このことを理解していれば、おそらく、「歩みの速度をゆるめる」という決断さえもが、この街が持つ強さを示すひとつの表現だと言えるのではないでしょうか。
実際、いま私はそのことについてあらためて考えています。そのこととはつまり、「スピード」です。モダニティの特徴とも言える「スピード」は、ミラノの一部を成しています。ミラノは活力あるビジネスと文化の中心地です。とりわけファッション、デザイン、食文化に関しては、ここは疑いもなく世界に向けたショーケースです。ここから発信されたカルチャーや独自の表現は、数週のうちには「イタリアン・スタイル」として世界中に知れわたります。私は長年ミラノを見てきました。私はこの街を誇りに思い、同時に、ミラノの街が、それ自身の持つ過去の一面を捨て去り、ヨーロッパを代表する見目美しい現代都市へと脱皮していく姿を、時には一抹のノスタルジーを感じながら眺めてきました。
現在ミラノの多くの人々が、新聞を読んだり、ソーシャルネットワークから情報を得たりする中で、街が歩みを止めたことに対して恐怖を感じ、今すぐにでも活動を再開したいという強い願望を抱いている、と。私にはそのように感じられます。しかし、ミラノは決して歩みを止めていません! 私はミラノ市民として、そしてひとりのイタリア人として、すべての歩みが止まったように見える緊急事態の渦中においても、今もこの街が自治体としてのサービスを市民に保証し続けていることを誇りに思っています。長い歴史を通じたミラノの伝統である奉仕活動もまた、未だにその歩みを止めてはおらず、全地域で人々の支えあいと支援を約束し続けています。何ひとつ停止していません。ファニチャーフェアや、アイウェアの国際展示会「Mido」は、中止ではなく、延期となって初夏に開催されるとお考えください。
今回のウィルスがイタリアに到達したとき、私はいち早く、スタッフとゲストの安全を最優先に、完全にウィルスを予防できる形で、ジョルジオ アルマーニ・コレクションのショーを無観客で実施することを決断しました。そしてその同じ日に、自分の職務に人生を捧げるジョルジオ・アルマーニという私自身は、ここから歩みを先に進める前に、まずは世界でいま何が起こっているのか、それを見極めることが必要だと感じました。そしてその日から私は、きわめてデリケートな状況に置かれている現在のイタリアと世界の状況を、日々、細心の注意をもって見守っています。
私はまもなくこの緊急事態が終わりを迎え、再びミラノが世界に向かって開かれることを希望します。私はそのことに関して楽観的でありたいと思います。なぜならそれこそが、今、私たちが忘れかけていることだからです。人と人とが明るい展望を語り合い、伝えあうことを止めてしまえば、ミラノの街はエネルギーを失い、世界と自らを俯瞰するその視野を狭めてしまいます。これはまた、政治的・文化的な文脈にも当てはまります。私たちすべてを結びつけてくれるはずの国境を閉ざし、国としての孤立を深めるばかりでは、私たちは前に進めません。
私は今、この私と同様に、職務と規律を人生の規範とするすべてのミラノの人々にむけてこの言葉を発しています。今こそお互いを信頼し合い、私たち自身が街の力になりましょう。この困難な時にあっても、今ここから生まれくる未来の素晴らしい機会に目を向けましょう。6月には、ファニチャーフェアとメンズのファッションショーがミラノで開催されます。ロフィレンツェのバッソ要塞では、歴史あるファッションイベント「ピッティ」が開かれます。また言うまでもなく、イタリア各地のビーチに輝かしいサマーシーズンが訪れ、そこを訪れる世界中の人々を再び魅了するでしょう。私自身、自分の役割を果たす準備はもうできています」
このプロジェクトはミラノにとどまらず、イタリア全土に広がり、#Iloveitalia のハッシュタグで多くの国民が参加するような大きなものになっています。苦しい状況を引っ張っていく、国民的デザイナーの存在が大きいことは言うまでもありません。1日も早く、「ファッションの街」ミラノと「ファッションの国」イタリアに活気が戻るときが待たれています。