ファッション界に詳しい研究者、川島蓉子(かわしま・ようこ)氏の労作『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社刊、1575円)を読みました。
「ファッションの伊勢丹」と言われるだけあり、私も新宿に行くときは必ず伊勢丹新宿本店に立ち寄り、必ず何か買ってしまいます。昔、「ニコル(NICOLE)」で働いていた頃は、本店で店長を3年間務めた、思い出深い場所でもあります。
この本は伊勢丹の歴史を単に振り返ったビジネス書ではありません。現場で働く人々に密着して、同社の魅力的な売り場づくりのノウハウに迫ったドキュメンタリータッチの構成です。
特に興味を引かれる内容が何点かありました。以下に列挙してみます。
★「らしさ」を発信する
例えば、「ラフォーレ原宿」や「渋谷PARCO」のハッとさせられるようなポップなイメージ感覚のポスターのように、伊勢丹のポスターもインパクトがあります。季節ごとに打ち出されているイメージポスターは最新コレクションを装ったモデルと洋服がうまくマッチしていて、足が立まってしまいます。
私がかつて見た、とても衝撃的だったポスターは、タレントの吉川ひなのがメジャーになる前に撮られた、犬を抱いているポスターです。とても印象的で今でも覚えています。
★五感に訴えるワクワク
「伊勢丹にはワクワクさせてくれるものがありそうだから」と書かれている通り、私も伊勢丹に行くと必ず何か買い求めてしまいます。洋服、雑貨、化粧品、食品など様々な商品で、五感に訴えるワクワク感を生活全般に提供しています。
★孵化した海外ブランド「アナ・スイ」
私はニューヨークブランド「アナ・スイ(ANNA SUI)」で働いていたので、9ページにもわたる「アナ・スイ」に関しての内容にはとても興味津々でした。ライセンスビジネスで成功したブランドで、アパレルとの客層が異なる点などが指摘されています。例えば、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」もライセンスとアパレルでは客層が異なるのと同じで、難しい問題点であるとも思えました。
★競合先は青山・銀座・代官山・原宿
ファッション分野で国内百貨店のトップを走り続ける伊勢丹にとっては、ほかの百貨店や専門店が競合相手ではないという指摘には納得です。セレクトショップやアート、クラブ、カフェ、ギャラリーを意識した店舗・商品展開を進めているというところが、今の自主編集売り場「リ・スタイル・プラス」につながっているのでしょう。
伊勢丹の今後がさらに楽しみになる1冊です。
[関連サイト]
・『伊勢丹な人々』の紹介ページ(日本経済新聞社)はこちら